スポーツ選手のファンサービス【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第58回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか?

さっそくですが、こちらはある日のプロレスラー・YO-HEY選手(プロレスリング・ノア)のツイートです。

「試合後のサイン会。本当は対象グッズを購入してくれた方のみにサインなんだけど、試合終わって真っ先に試合中ずっと応援してくれてた中学生?達が色紙を片手にサインください!ってきたのでやってあげたいけど…って悩んでいたら横にいた小川さんに『やってやれよ』と。感謝です。惚れました」(原文のまま)

状況を説明すると、会社の決まりで選手がサインをするのはグッズ売店で対象商品を購入した方のみと定められています。YO-HEY選手のもとに子どもたちが色紙を持ってサインを求めにきたけど、ルールではサインをすることができない。サインしてあげたいけど…と悩んでいたところ、先輩レスラーの小川良成選手が会社の規定とは関係なしにGOサイン。そして特別にサインをしてあげたという話です。

素敵なお話です。しかし、ルールを破ったことに関して賛否がありました。「神対応」「素晴らしい」と称賛の声があがる一方で、「特別扱いはどうなのか」「子どもだけズルイ」と疑問を投げる声もあります。事の良し悪しは判断基準によって異なってくると思いますが、個人的に言いたいのは、これが本当の意味でのサービスだということです。

人気選手には多くの人がサインを求めて殺到する

“ファンサービス”と題して球団や団体が開催するサイン会や撮影会は、“業務”として行なわれるものであり、本来のサービスとは趣が異なります。その昔、ファンサービスの天才とも呼ばれた新庄剛志さん(元阪神・日本ハム)を取材したとき、「本当のサービスはルールを破ってでもお客さんを喜ばせること」と口にしていました。この話で言うならば、グッズを買った人にサインをするのはルール、言い方を変えれば選手の仕事であり、サービスでもなんでもなく普通のことです。一方でYO-HEY選手の行動(促した小川選手の行動)は、ルールを破ってでもファンを喜ばせたという点で、本当のサービスだと言えると思います。きっとサインをもらった子たちにとっては一生忘れられない思い出になったことでしょう。

ただ、気をつけなければいけないのは、こうしたサービスはあくまでも選手の厚意によるものだということ。ファンの側は当たり前だと思ってはいけません。

こちらは野球解説者の里崎智也さん(元ロッテ)のツイートです。

「結局変わらないのかな? 東京D解説後、お客さんがまだ数十人ぐらいいらしたので、全員にはできないのでと、サインをお断りしたら、かなり強い口調でサインと言われながら右腕上腕を強く鷲掴みされ引っ張られた。肩肘に不安があるわけじゃないので痛って感じで終わったけど、当たり前じゃないからね」(原文のまま)

いわゆる「出待ち」のファンとのやり取りをツイートしたもの。里崎さんはこうもツイートしています。

「今回の事SNSに上げる事なかったかもしれないけど、松坂の一件もあったし、今年はラグビーW杯、来年には東京オリンピックパラリンピックが日本で行われる。世界のスーパーアスリートに同じような事があることは許されないので敢えて言わせてもらいました。可能な時にはします。自分だけは!は心抑えて」(原文のまま)

今年2月、中日ドラゴンズキャンプで、松坂大輔投手が殺到したファンに右腕を強く引っ張られ、肩を負傷する事故が起こりました。憧れの選手のサインをほしい、触れ合いたいという気持ちはわかりますが、用意されたサイン会ではない場所でのサインは当たり前ではないのです。サービスは「ルールを破ってでもお客さんを喜ばせること」と前述しましたが、ファンの側がルールを破ってはいけません。少し冷静になって相手のこと、周りのことを考えるようにしてください。

ラグビーワールドカップ、そしてオリンピック・パラリンピックと、2019年、2020年の日本は世界中のスポーツ選手、スポーツファンから注目されます。どんなときでも節度とリスペクトの気持ちを持って、人と接するようにしていきましょう。

 

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。