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元プロ野球選手が開く野球塾、その名も「野球心」 第2回:現役時代の苦労が生んだ「野球心(やきゅうしん)メソッド」




大阪近鉄バファローズやオリックス・バファローズで長きにわたって活躍した水口栄二さんが野球塾を開き、子供たちに指導をしている。インタビュー2回目となる今回は、実際の野球塾での指導について聞いた。

オリックス退団後、水口さんは、それまで温めていた子供相手の野球塾というアイデアを実行に移す。

「11月にコーチをクビになって、どうしようかなって考えていました。退団した後、知り合いがやっているバッティングセンターから子供の指導を頼まれたんですけど、実際やってみて面白いなって思ったんです」

プロ入り後、いてまえ打線を目の当たりにして自分の打力のなさを痛感した水口さんは、「バッティングノート」を作って気づいたことをメモしていったという。子供たちを指導していくうちに、自身が現役時代に培ったバッティング理論を伝えたいという気持ちが湧いてき、それを実行に移したのだ。自宅の近くの空き地を借りる目処をつけると、プレハブの事務所とドーム型テントを張った室内練習場を急ごしらえし、2009年4月、「野球心」をオープンした。

「11月いっぱいで退団、給料は12月まで出ましたが、年が明ければ無収入生活ですよ(笑)。現役時代はそれなりにもらっていましたが、どうしても使ってしまうんですよね。後輩を連れて食事に行ったり。だから貯金もそんなになかったので、不安しかなかったです。何人来てくれるかなんて、考えないようにしてました(笑)」

そして、オープンの日、やってきた「生徒」はたったの3人。バッティングセンターで教えていた少年たちだった。それでも、クチコミなどにより生徒数は着実に増え、昨年生徒の保護者からの要望により、少年野球チームも発足させた。

レッスンの様子(写真提供:野球心)

「野球チームの方は監督ではなく、GMみたいな感じで名前を連ねているだけです。試合には足を運びますが、基本、(チームの練習日の)土日は休んでます」

 

「野球心メソッド」の2つの秘密兵器

 

それでは、水口さん率いる「野球心」ではどんな練習をしているのだろう。インタビューの後、室内練習場に案内してもらった。

多くの野球塾がそうだが、レッスンでは広いグラウンドは使用しない。それは、生徒各自が所属しているチームで行うからだ。基本的に野球塾では、その全体練習でつまずいた部分を、修正、補強、もしくは基本的な体の動かし方を学ぶ。経営的にも、数人ためのレッスンに野球場を丸々用意することもできない。すべてのスポーツに共通しているのが、股関節を中心とする体幹の強さと使い方の重要性だ。これなしに、技術の向上は見込めない。

「野球心」では、この体幹の強化と野球の動きの中での使い方を習得するために、「モンスタースパイク」を使用している。「スパイク」と言っても、履物ではない。水を入れた楕円形の大きなチューブに乗ってトレーニングをするのだ。

「乗ってみましょうか」と言われ、実際乗ってみる。ふらふらして立ち姿勢を維持するだけでも大変だ。立つのに慣れてくると、この上で、両足立ちでのシャドーピッチングやバットスイングをするというのだ。体幹と股関節をしっかり使い、なおかつ軸の安定したフォームでないとできない。上級者になれば実際ボールを投げたり、打ったりすることもあるらしい。初心者には、バットを振るまねをするのが精いっぱいだ。

本当にそんなことができるのかと思うのだが、水口さんが実演して見せてくれる。

足元の楕円形のチューブがモンスタースパイク

「最近はめっきり運動しなくなって太りましたけど」と笑うが、やはり元プロアスリートは違う。

しかし、ここに来る少年のほとんどは、はじめからそんな芸当をできるはずがない。不安定な円筒の上でのトレーニングには当然、転倒というリスクが伴う。頭を打つようなことがあれば、大きな事故になる恐れが高い。そこで、水口さんは天井からワイヤーをかけ、腰ベルトとそれをつないで、生徒がモンスタースパイクから転げても、頭や腰を強く打つようなことはないよう、安全には最大限の配慮を払っている。

そしてもうひとつの秘密兵器が、「野球心ボール」だ。見たところなんの変哲もないウレタンのボールだ。

「投げてみてください」

1球渡されて投げてみる。軽すぎてうまく投げられない。力の入れ具合が分からないのだ。

「そうでしょ。だから、自分たちで中身を詰めたんです」

ウレタン製のボールを発注し、それに自分たちでシリコンを充填して「芯」を作ったのだ。それによって適度な重さができ上手く投げることができるようになった。

と言っても、このボール、主目的は投げる練習ではない、打撃練習でその効果を発揮するのだ。充填剤を入れたといっても、通常の軟球、硬球に比べるとかなり軽い。その分、通常のボールより重力に逆らうことができる。つまりは、投げた球がホップするのだ。

水口さんが手にしているのが野球心ボール

「フライボール革命」がプロの世界で言われてはいるが、やはりバッティングの基本は、「上から叩く」である。キャッチャー側の脇をしっかり締めてバットのヘッドが下がらないように振らねば、速い球には対応できない。「野球心」に来る生徒のほとんどは、高校以降高いレベルでプレーしたいと考えている小学生、中学生だ。彼らの将来を考えれば、「ホップする球」の球筋を早い時期から体感し、それに対応したバットスイングを身につけることは、非常に重要である。

軽すぎて打っても手ごたえがないのでは思ったが、実際打ってみると、インパクトの瞬間、芯があるせいか、パシン!と音とともに硬球を打ったのに近い感触がある。

「これをマシンで打つんですよ」と水口さんは、練習場の奥にあるバッティングマシンを指さした。

「このボールなら当たっても大丈夫でしょ。だから短い距離でやるんです」

なるほど、ボールが軽い分、通常のピッチャーとバッターの距離ではボールが浮き上りすぎる。短い距離ならボールがホップする感覚を得た上で場所を取らず練習できる。

「野球心」では毎日数名の生徒が同時に練習する。このボールを使えば、決して広くはない練習場を効率的に利用し、かつ将来に向けた基礎を身につける練習ができる。「野球心」ボールは、水口さんが、プロ生活で確立した野球理論を次世代に伝えるためにできた夢のボールなのだ。

トレーニングにはすぐれものの、「モンスタースパイク」、「野球心ボール」。ともに、特許を出願中とのことである。

つづく(最終回は野球を通じての育成について)

取材&文&撮影/阿佐智

 

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