1990年以前、筋トレはバカにされる風潮があった。☆石井直方×中野ジェームズ修一☆SPECIAL TALK #1




石井:その後、アメリカで高齢者の転倒が問題になったのがきっかけで、それを予防するために筋肉を鍛えるべきと言われはじめたのが90年代初頭。そこであらためて筋トレと健康の関連性が調べられるようになったんですけど、80年代に悪い結果が出たのはアナロボリック・ステロイドを使っている人が大半だったことがわかったんです(笑)。

中野:なるほど(笑)。

石井:当時のアメリカやヨーロッパでマニアックに筋肉を鍛えていた人たちは、ちょっと危ない人も多かったですからね(笑)。普通の人に一定期間トレーニングをしてもらったら、健康に関する数値は改善された。そこで初めて筋トレが悪いんじゃなくて、アナボリック・ステロイドが悪いということがわかったんですね。それで一般の人も健康のために筋肉も鍛えましょう、という考えに変わっていきました。それが90年代です。

90年以降、筋トレは一般にも受け入れられるように。Lumina Images‐stock.adobe.com

中野:アメリカで『フィットorファット』という本がベストセラーになったのも80年代でしたね。なぜ脂肪が体に悪いのかということが書かれていて、それを落とすために推奨されているのが有酸素運動だったんですけど、90年代後半から2000年くらいまでの間にそれが「有酸素運動+筋トレ」になってきた。

石井:ちょうど私は理学系からトレーニング科学系にシフトしていた時期で、その波に乗るような形になりました。健康やアンチエイジングにつながるような研究も頻繁にするようになって、2000年代になると健康寿命を延ばすにも筋トレが大切だという考えがかなり普及してきました。今となってはそれを誰も疑わなくなりましたし、臨床系の学会でも当たり前の考えになっていますけど、それは90年代とはまったく方向性が違うんですよ。90年代初期に「筋トレで健康になれますよ」と言ったら、怪訝な顔をされましたから(笑)。

中野:そういう流れがあって、私の会社も2003年に立ち上がりました。筋トレやトレーナーという職業が少しずつ認められてきていたので、時代には合っていたと思います。

石井:筋肉を鍛えることはアスリートだけではなく、すべての人にプラスになるということがやっと認識されてきた。それが今の状況だと思います。

<第2回につづく>

取材・構成/本島燈家
写真/神田勲

石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学・大学院教授。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍中。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。
石井直方研究室HP
中野ジェームズ修一(なかの・じぇーむず・しゅういち)
1971年、長野県出身。PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー。米国スポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP-C)。「理論的かつ結果を出すトレーナー」として、卓球の福原愛、テニスの伊達公子、バドミントンの藤井瑞希など多くのアスリートを指導。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くから「モチベーション」の大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとして活躍を続ける。技術責任者を務める東京・神楽坂の会員制パーソナルトレーニング施設『CLUB 100』は、「楽しく継続できる運動指導と高いホスピタリティ」が評価され、活況を呈している。主な著書に『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP社)、『世界一伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレシリーズ』(徳間書店)などがある。