現在、日本のパーソナルトレーナーは、物すごい勢いで増加中です。それだけ人々の健康やトレーニングに対する熱が高まっているという証拠でしょう。このコーナーでは、パーソナルトレーナーとして活躍する人物をフィーチャーして、紹介していきます。パーソナルトレーニングを始めようかと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。今回登場するのは、現役格闘家でありながらパーソナルトレーニングジム「FIGHTER’S’ FLOW」の代表で、パーソナルトレーナーとして活躍する上田貴央さん。現役格闘家としてトレーナーを務めることの強みとは?
「やりたいことをやる」がモットー
ショータレントから格闘家&トレーナーに
やりたいことをやりたい。楽しく日々を過ごしたい。自分の感情に素直に生きてきた結果、現役の格闘家であり、パーソナルトレーナーであり、ジム経営者という三つの顔を持つようになっていた。上田貴央さんは、そんな多忙な日々を「365連休を利用してやりたいことをやっているだけです」と笑う。
もともと運動が苦手で体育の成績が悪かった。そんな姿を見かねた元体操選手の父から指導を受けて体操に取り組むと、バク転やバク宙ができるようになった。成功体験を得て体操を続けていくと、中学、高校では県チャンピオンに輝き、明治大学体操部では主将を務めるまでになった。体操一筋でやってきた上田さんが初めて格闘技に触れたのは、大学生のときのことだ。
子どもの頃からプロレスや格闘技が好きで、いつかやってみたいと思っていた。そこで大学入学後、プロ選手も所属するジムに見学に行ったものの、あえなく門前払い。気軽に入れる世界ではないと感じ、知り合いのブラジリアン柔術の先生が自宅で行なっていた同好会の練習に参加することにした。部活の体操と並行して、週に1回程度、楽しく格闘技に取り組んでいったのだ。
好きなことをやりながら楽しい学生ライフを過ごしたが、卒業のタイミングで体操にも格闘技にも一区切りつけることになる。「普通の仕事をしたくなかった」という上田さんが選んだ仕事は、特技の体操を生かしたショータレントだった。
「普通に働くのは嫌だなと思っていたら、テーマパークでショーの仕事をしないか?という話をもらったんです。バク転ができる人という条件のあるオーディションを受けて合格して、テーマパークで3年間ぐらいショータレントをやっていました」
持ち前の運動能力と、さわやかなルックスが相まって、出待ちのファンがいたり、ファンレターをもらったりと人気も上々。体を動かしてやりたいことをやりながら収入もしっかりと得られていた。そんな充実した日々の中でふと頭に浮かんできたのが格闘技のこと。大学時代に同好会では触れたものの、本格的にはチャレンジしないままだった。「やりたいことをやりたい」という本能にしたがって、3年以上のブランクを経て、道場に入門して本格的にMMAの練習を開始。このとき、すでに25歳になっていた。
「学生時代に柔術のサークルに週1回くらい参加していただけで、ちゃんとMMAの練習を始めたのは25歳のとき。ものすごく遅いスタートですよね。でもスタートが遅くても勝てるかどうかは別として、しっかり練習をすれば試合には出られるようになるんです」
事実、上田さんはこれまでにプロの総合格闘技で20戦以上のキャリアを積んでいる。格闘技経験がなく、スタートが遅くても、道が開けることを証明してみせた。そして本格的に格闘技を始めたことで、新たな道が生まれた。それがトレーナーとしての道だ。
365連休を利用して
好きなことをやっているだけ
「格闘技を始めて試合前に減量をするようになって、すごく苦しいんですけど面白かったんです。体づくりや食事方法は本当に奥が深い。本に書いてある通りにやっても個人差があるので、その通りになるとは限らない。いろいろ調べたり、試したりしていて、どんどん体づくりにハマっていきました」
上田さんが体づくり、食事法を勉強していると、それを知った仲間から減量のアドバイスを求められるようになった。また、SNSで自分のやっていることを発信していると、一般の方からも「どうしたら痩せられますか?」と問い合わせが数多くくるようになった。
「最初は自分が経験から得た知識をシェアしてたんですけど、一般の方にそのままやってもらうわけにもいかないので、伝え方をいろいろ勉強するようになりました。これをトレーニングと合わせて売っていけば、仕事にできるなと思ってトレーナーを始めたんです」
2012年頃から場所を借りながらのトレーナー活動を開始。2017年には自らが運営するFIGHTER’S FLOWを創設した。このジム設立は「5秒で即決」したくらいの見切り発車。潜在的顧客が多数いたわけでもなければ、事業計画書もなし。銀行からの融資も受けず、私財を投入してのスタート。仲間からは「オマエ大丈夫か?」と心配されたが、「やりたいことをやりたい」という気持ちが何よりの原動力だった。
現役の格闘家として自身の練習もあるため、すべての時間をパーソナル指導に割くわけにはいかない。そうなれば収入が減ってしまう恐れもある。二足の草鞋はデメリットがある一方で、それ以上にメリットが大きいと上田さんは言う。
「僕が現役で格闘技をやっているということで、現在進行形でやり方をアップデートしているというのが強みだと思います。自分で人体実験をして、そこから抽出したものを皆さんにフィードバックできるんです」
ジムに訪れるお客さんはダイエット目的の女性が大多数を占める。しかし、上田さんが教えるのはダイエット方法ではない。
「ダイエットは掃除と一緒でやり方はなんでもいいんです。掃除はやり方に決まりはなくて、どんな順番、どんな形でもキレイになればいい。問題はその人がキレイ好きかどうか。キレイ好きじゃない人にいくら掃除の方法を教えても意味がない。キレイ好きになる方法を教えないといけないんです。ダイエットも同じです。ダイエット方法は本にも書いてあるし、教えてくれる人はたくさんいると思います。でもその人がやりたくなければ方法を知っていてもやらないですよね。僕はどうやったらキレイ好きになれるか、どうやったら体づくりが好きになれるか、その方法を知っています。ウチでは体づくりをすることが、自分にとって一番やりたいことになるようにフォーカスしています。自分にとってのカロリーコントロールや筋トレが、どうやったらお風呂や歯磨きと同じようになるかという、そこにもっていくための階段を用意しているんです」
好きなこと、やりたいことをやるという上田さん自身の原点がここにも集約されている。体づくりや筋トレが、やりたいこと、好きなことになれば、ダイエットも体形維持も苦ではなくなる。そうなるようなメソッドで指導をしているというのだ。
現在の上田さんは、格闘家として週7日毎日練習をして、その他の時間はパーソナルトレーナーとして指導にあたっている。今後は事業拡大や自分と同じノウハウを共有できるトレーナーの育成も視野に入れている。休んでいる時間はまったくないが、すべてがやりたいことだから大変だと思うことはない。
「365連休を利用して好きなこと、やりたいことをやっているだけです。僕はやりたいことのために何かを犠牲にするということはありません。すべてやりたいことなんです。だから毎日がゴールデンウイークというか、特別な日はないんです。好きなことを一生懸命やってきた人が楽しく生きられる世界であってほしいじゃないですか(笑)」
好きなこと、やりたいことを楽しくやっている。そんなトレーナーのもとなら、きっとトレーニングや体づくりがやりたいことになり、好きなこと、楽しいことになるはず。上田さんはこれからも自分のやりたいことで、たくさんの人にトレーニングライフの素晴らしさを伝えていく。
取材・佐久間一彦/撮影・編集部
上田貴央(うえだ・たかお)
1983年6月10日、富山県出身。学生時代は体操選手として活躍。現在は格闘家としてリングに上がりながら、パーソナルトレーナーとして、格闘技・加圧トレーニング・体操などを指導している。5月11日には新宿FACEで開催される「ZST.65」に出場する。
FIGHTER’S FLOW