VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? いよいよ夏本番。各地で夏の甲子園予選が盛り上がっていますね。
さて、7月25日に行なわれた岩手県大会決勝の花巻東vs大船渡戦が大きな話題となっています。今年のドラフトの目玉であり、高校生史上最速の163㎞を記録した怪物右腕・佐々木朗希投手(大船渡)に注目が集まっていましたが、前日の準決勝で129球を投げて完投していたこともあって決勝戦での出番はなし。結局、エース抜きで戦った大船渡は自力に勝る花巻東に完敗。甲子園がかかった決勝戦で佐々木投手を温存したことに対して、「なぜ大事な決勝で投げさせないんだ」と批判の声もある一方で、「選手の将来に配慮した判断」と称賛の声もあって賛否両論。試合翌日のTwitterを見るとトレンドに「苦情殺到」の文字があり、佐々木投手が登板せずに敗れたことに対して学校に苦情電話が殺到したというニュースが出ていました。
立場によって考え方は異なるはずなので、これはとても難しい問題です。まず選手の立場で考えてみると、佐々木投手が試合後に語った「投げたかった」という言葉は偽らざる本音でしょう。彼の野球人生はこれからも続いていきます。しかし、大船渡高校で3年間一緒に甲子園を目指してきた仲間たちとプレーができるのは、この夏が最後。そう考えたらケガのリスクなど考えずにチームのため、仲間のためにも投げたいと思うのは当然でしょう。
基本的に選手は無理をします。私も学生時代は骨折しても靭帯が伸びても無理やり試合には出ていました。おじさんになってから体のあちこちにガタはきていますが、学生の頃は1大会ごとに真剣勝負なので多少のケガで自分からノーという選択をすることはありませんでした。どんな競技をやっていてもそれは同じではないでしょうか。
選手は冷静な判断ができません。だからこそ指導者の判断が大事になります。大船渡高校は35年ぶりの甲子園がかかっていました。スター選手の存在もあり、地元の方々の期待が膨れ上がっていたことは容易に想像できます。そうしたなかで大船渡高校の国保陽平監督は筋肉の張りを訴えていた佐々木投手のコンディションを見て登板回避を選択。その決断をした理由については「球数、登板間隔、気温。今日は暑いですし、悩みはなかったです」と即決だったことを口にしています。
個人的には批判が殺到するような判断ではないと思っています。もちろん、佐々木投手が投げていれば大船渡が勝っていた可能性もあるでしょう。ただし、投げたさせたら投げさせたで「選手を壊すつもりか!」と違う意味での批判が殺到するはずです。これでは国保監督はどんな選択をしたとしても批判されるということ。これっておかしくないですか?
一番問題視されるべきは、監督の決断ではなく、過密日程のほうではないでしょうか? もしもこれが決勝戦の前に休養日が入る日程だったら、国保監督も佐々木投手も違った決断をしていたかもしれません。県内の使用できる球場の数や、学校との日程調整などいろいろ問題はあるのかもしれませんが、予選の開幕時期を早める。1~2回戦の一日の消化試合数を増やすなど、過密日程を回避する策を県の高野連が考えることはできたはずです。もしくは「〇球以上投げた投手は連投不可」という明確なルールを決めることができれば、一人の監督にすべての責任を背負わせるようなこともなくなるのではないでしょうか。
難しい問題が山積みで簡単ではないことは十分理解していますが、学生たちが思い切ってプレーできる環境ができればいいなと思うしだいです。
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。