「筋肉の硬さ」と「競技パフォーマンス」との関係を調査発表【順天堂大学】

「筋肉が硬い」とか「軟らかい」と表現されることがありますが、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の宮本直和准教授らの研究グループが、「筋肉の硬さ」について興味深い研究を発表しました。今回は記者会見の模様と、宮本准教授への独自インタビューをお伝えします。

スポーツの現場で「バネがある」「軟らかい」などと表現されてきた筋肉ですが、アスリートが実際に高いパフォーマンスを発揮する上で、その筋肉が軟らかいほうが良いのか、硬いほうが良いのかは明確にされていませんでした。

順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の宮本直和准教授らの研究グループは、これまで解明されていなかったアスリートの「筋肉の硬さ」と「競技パフォーマンス」との関係について調査。その結果、短距離走選手では「硬く伸び縮みしにくい筋肉」を持つ選手のほうがパフォーマンスが高い(タイムが良い)一方、長距離走選手では「軟らかく伸び縮みしやすい筋肉」を持つ選手のほうがパフォーマンスが高いことがわかりました。

本研究により、アスリートが高いパフォーマンスを発揮する上で、筋肉の質(硬さ・軟らかさ)と競技種目との間には適した組み合わせがあり、それは競技特性によって異なることを初めて明らかにしました。
これはアスリートに対し、競技特性と筋肉の質に応じたトレーニングの必要性を示すもので、今後の適切なトレーニング法確立への貢献が期待されます。

本研究はアメリカスポーツ医学会雑誌『Medicine & Science in Sports & Exercise』オンライン版で公開されましたが、これにともない7月30日、順天堂大学にて記者会見が開かれました。

記者会見に出席した内藤久士順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科長(右)と宮本直和 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科准教授

【背景】
スポーツの現場では、優れたパフォーマンスを発揮したアスリートに対して、「バネがある選手」と表現することがあります。ここで表現される“バネ”とは、主にアキレス腱や膝蓋腱など腱組織が引き延ばされて縮む動きを指しますが、「筋肉」も伸び縮みすをする“バネ”の役割を果たしています。
一方で、スポーツの現場では、従来よりアスリートの筋肉に関して、「軟らかくて良い筋肉」などと表現することもあります。「筋肉の硬さ・軟らかさ」というと一般的には「触った時に感じる硬さ(=凹みにくさ)」が想起されますが、スポーツの場面で必要とされる筋肉の「硬さ・軟らかさ」は触った時に感じる硬さではなく、「伸び縮みしやすさ」としての「軟らかさ」です。しかし、実際にアスリートが高いパフォーマンスを発揮する上で、“バネ”となる筋肉が、軟らかく伸び縮みしやすいほうが良いのか、硬く伸び縮みしにくいほうが良いのかについては、これまでわかっていませんでした。
そこで、研究グループは、「筋肉の“バネ”」を用いる動きとして走運動に着目し、陸上短距離走選手や長距離走選手の筋肉の硬さ(伸び縮みしにくさ)・軟らかさ(伸び縮みしやすさ)と競技パフォーマンスとの関係について調べました。

【内容】
今回の研究では、走運動の接地時に伸び縮みし、また、短距離選手と長距離選手で速筋線維(白筋)と遅筋線維(赤筋)の割合(筋線維組成)が大きく異なることがわかっている外側広筋(*1)に着目し、計測を実施しました。筋肉の硬さ(伸び縮みしにくさ)の測定には、生体軟組織の硬さを非侵襲的かつ局所的に計測することができる超音波画像診断装置の剪断波エラストグラフィ法(*2)を用いました(図1)。

【図1】本研究で測定した筋肉の「硬さ」

この手法を用い、現役の陸上競技短距離走選手22名および長距離走選手22名の外側広筋の硬さを調べました。その結果、長距離走選手の筋肉は短距離走選手の筋肉よりも硬いことがわかりました。そこで、短距離走選手において、筋肉の硬さと100m走のタイムとの関連を検証したところ、硬く伸び縮みしにくい筋肉を持つ選手のほうがパフォーマンスが高い(タイムが良い)ことがわかりました(図2左)。一方、長距離走選手においては、軟らかく伸び縮みしやすい筋肉を持つ選手のほうがパフォーマンスが高いことがわかりました(図2右) 。

【図2】短距離走選手と長距離走選手における筋肉の硬さとパフォーマンスの関連

すなわち、アスリートが高いパフォーマンスを発揮する上で、筋肉が軟らかく伸び縮みしやすい方が適しているのか、硬く伸び縮みしにくいほうが適しているのかは、競技特性によって異なることを明らかにしました。

【今後の展開】
これまで、競技レベルが高いアスリートはどこの筋肉が発達しているかなど、筋肉の量的特徴は盛んに検討がなされ、そこで得られた情報はトレーニングの現場などにも活かされています。
一方、アスリートの筋肉の質的特徴については、遅筋線維(赤筋)と速筋線維(白筋)の割合(筋線維組成)などは調べられてきたものの、硬さなどの機能的な特徴はほとんど着目されてきませんでした。
本研究は、アスリートが高いパフォーマンスを発揮する上で筋肉の質と競技種目との組み合わせが重要であり、その組み合わせは競技種目特性によって異なることを初めて明らかにしました。
このことは、アスリートが競技特性と筋肉の質に応じたトレーニングを行なう必要があることを示唆しています。
また、同グループの近年の研究により、筋肉の硬さは“アスリート遺伝子”と呼ばれるαアクチニン3遺伝子や肉離れなどの筋損傷受傷リスクと関連があるエストロゲン受容体遺伝子のタイプの影響を受けることが私はわかってきています。
今後、どのようなトレーニングを行なうと筋肉が硬く伸び縮みしにくくなるのか(または軟らかく伸び縮みしやすくなるのか)などについて詳細に検討することにより、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できるよう、競技特性と個人の特性を考慮したカスタムメイド型トレーニング法の構築を目指しています。

【用語解説】
*1 外側広筋:大腿部前面にある大腿四頭筋を構成する筋肉の一つ。膝関節の伸展に作用する主要な筋肉。
*2 超音波剪断波エラストグラフィ法:超音波を利用し、以下の原理で生体軟組織の硬さを非侵襲的かつ局所的に計測する方法。(1) プローブから照射された超音波ビーム(音響放射力)によって、筋肉などの生体軟組織にわずかな振動を生じさせる。(2) この振動によって生じた波(剪断波)が、その組織内を伝播する。(3) この剪断波の伝播速度を測定する。剪断波は硬いところほど速く伝わる性質があるため、剪断波速度から硬さを評価することができる。

【宮本直和准教授インタビュー】

――今回の研究の、筋肉が「硬い」「軟らかい」という考え方は触ってみて硬い・軟らかいという意味ではなく、伸びる方向、つまり「可動域が大きいか小さいか」ということなのでしょうか。

宮本 筋肉の機能を考えると、筋肉を押し込む方向の硬さや軟らかさは、人の動きには関係しません。人の動きとの関係を調べる上で測るべきは伸び縮みする方向の硬さ・軟らかさなんです。

――となると、ボディビルダーのようなマッチョな筋肉は硬そうに見えるし、実際に触ると硬いと思うのですが、ああいう人でも実際には数値自体は軟らかい人がいると考えられるのでしょうか。

宮本 いると思います。肩が凝っていたり、筋トレをした後は筋肉が張りますよね。あの時、上から押すと硬いのですが、伸び縮みのしやすさとは別ものです。伸び縮みのしやすさや筋肉のパフォーマンスは変わらなくても、押してみると「あ、張ってるね。パンプアップしているね。硬いね」となることがよくあります。血流とかが悪くなって、たしかに筋肉は張るのですが。

――筋肉の「硬い」とか「軟らかい」の概念が通常とは違うのですね。

宮本 伸び縮みのしやすさを測る必要があり、それを測ったら今回のような結果になりました。

――伸び縮みしにくい人のほうが短距離走では有利になったのはどうしてなのでしょうか。

宮本 そのほうが効率的に瞬間的な力が加えられるからです。それに対し、長距離の場合はそれほど短時間に効率的に力を加えることは重視されない上に、筋肉が硬いと反対側の動きの妨げになってしまいます。そうなるとその動きを長時間続けることによってエネルギー的にロスになるんです。ただし、これはまだあくまで仮説で、これから研究によって実証していく必要があります。

――効率的に瞬間的な力を加えるということは、たとえばパワーリフティングで重い重量を瞬間的に挙げたりする場合は、硬い筋肉のほうがいいということでしょうか。

宮本 おそらく硬いほうがいいでしょう。

――それはデータで出ていると。

宮本 まだデータでは出ていませんが、今回の研究をふまえると、おそらくそうなると思います。

――あまり硬い筋肉になると可動域は減るんでしょうか。

宮本 可動域には多少影響があるかもしれませんが、バレリーナやフィギュアスケーターほどの可動域を要するアスリートでなければ、硬くて多少可動域が減っても問題はないと思います。

――格闘技などは、どうでしょうか。イメージとしてはレスリングとかもそうですが、軟らかいイメージがあるのですが。

宮本 場所によるのではないでしょうか。瞬発力が必要となる筋肉もあるでしょうし、関節技をきめられないよう可動域を広げるために軟らかくしておく必要がある筋肉もあるでしょうし。全部の筋肉が軟らかいのか、それとも一部なのか、それはまだわかりません。他にも球技はどうなのかということもわかっていません。これから段階を追って研究していきたいと思います。

宮本直和(みやもと・なおかず)
順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ科学科/大学院スポーツ健康科学研究科准教授
2000年、京都大学総合人間学部卒業。2005年、同大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。2005年、京都工芸繊維大学研究員。2007年、早稲田大学スポーツ科学学術院助手。2010年、同研究院助教。2012年、同講師。2013年、鹿屋体育大学准教授。2018年、順天堂大学スポーツ健康科学部准教授。現在に至る。
2019年4月より日本スポーツ振興センター・ハイパフォーマンススポーツセンターのアドバイザーを務める。
また、ウィンドサーフィンで2002年世界選手権出場、2003年に国民体育大会優勝、2005~2006年にはオリンピック強化指定選手にも選ばれるなど、アスリートとしての実績も持つ。