ポージングの季節【ジムほど素敵な場所はない #08】




コンテストシーズン真っ盛りですね。
本日12日の全日本学生ボディビル選手権は台風の影響で中止になってしまいましたが、14日にはJBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)最高峰のイベントである日本選手権が開催されます。学生大会も急遽そのイベントスケジュールの中に組み込まれたようですね。学生連盟とJBBFの迅速な対応には感動です。

夏が近づく頃から、コンテストを目指すトレーニーたちの雰囲気は少しずつ変わってきます。オフシーズンは筋肉量を増やす過程で脂肪も若干のりがちですが、減量がはじまり、日焼けをするようになると、ボディとともに顔つきも精悍になっていきます。

その頃になると、ジムではポージングをする人を目撃する機会も増えます。
ほとんどのジムには、トレーニーが自分を映すための鏡がいたるところに設置されています。とくにフリーウエイトのエリアは壁(鏡)ぎわにある場合が多く、鍛えたてホヤホヤの筋肉を映すには最適の環境です。

そもそも鏡が設置された目的は、トレーニング中のフォームを確認することだったかもしれません。しかし、上級者、あるいはコンテスト志向の本格派にとっては「筋肉がどう見えるか」、つまり“映え”をチェックするアイテムという要素が大きくなります。
トレーニング終了後、かなり長時間にわたって鏡の中の自分と向き合っている人もいますし、インターバル中も気になってポーズをとってしまう人もいます。

コンテストにおいて、ポージングは重要なファクター。その練習に時間と労力を割くのは選手としては当然のことです。真剣な表情で鏡と向き合う人を見ると、思わず「がんばれ!」と声援を送りたくなってしまいます。

大小さまざまなコンテストが誕生している昨今。さらにフィジークというカテゴリーができたことで間口が広がったため、総合型ジムの従業員やトレーナーのコンテスト人口も確実に増えているようです。
私がよく行くジムのトレーナー、Kさんも最近デビューしたばかりのフィジーカー。昨年は肩を痛めて出場を断念したため、今年は春頃からかなり燃えているようでした。

なかやまきんに君もデビューするなど、着実に競技規模が拡大しているフィジーク。ジムのトレーナーにも挑戦者が増えている

ある時、Kさんは30歳前後の女性にレッグプレスマシンの指導をしていました。そこから4メートルほどの距離の壁には一面の鏡が。Kさん、どうしても我慢できなかったんでしょう。ふとした間に、ついついそちらを見てしまいます。
名誉のために言うと、もちろん指導に手を抜いているわけではありません。真面目に、ていねいに教えながら……でも、思わず横を見てしまいます。ややもすると、上腕にぐっと力をこめてしまったりします。

気持ちはわかります。どんな競技にも言えますが、大人になってからのチャレンジには学生時代とはまた違った思いがあるはずです。ましてステージに立ち、多くの人の視線を受け止めるという緊張感は、特別なテンションを生み出すのでしょう。

トレーナーと言っても、そのジムでは従業員の一人なので、Kさんの居場所は必ずしもトレーニングエリアとは限りません。時にはプールサイドに立っていることもあります。
そこでは、もちろん水着1枚です。水着……そうです、絶好のチャンス。まあ、見る。暇さえあれば、鏡を見る。泳ぐ人が少ないと、もう夢中です。容赦なくポージングしてしまいます。

「大会が近いのね」
「そうね、日焼けしてるもんね」
休憩中のオバサマたちも、やさしく見守っていました。

夏が終わり、「どうでした?」と聞いてみると、「いやあ、アハアハハ」とKさん。

来年、またがんばれ!

 

文/ジェット・ハヤタ