北海道札幌に、知る人ぞ知る「筋肉の道場」がある。
取材を申し込むと、
「うちは筋トレ界の頑固オヤジのラーメン屋ですよ。
それでもいいなら、どうぞ」と野太い声が返ってきた。
後日、住所を頼りに頑固オヤジのラーメン屋を探すと
2階建てのピンクの建物を発見。
地下鉄ススキノ駅から歩いて7分くらいのところに
「ウエイトトレーニングジム B-ONE」はあった。
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派手なBGMが響く中、扉を開けて大きい声で名乗ると、
こわもて風(失礼)の北村次秀代表が、
「取材ですよね。今、空いてきたからいいですよ」と微笑んだ。
笑顔だけど怖そうなのは気のせいか。
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中に入ると黒光りしたマシンがズラリと並び、圧倒される。
1台目のアームクロスを前にしばし佇んでいると、
「これはね、多分、日本ではうちくらいしか置いてないんじゃないかな」
と北村代表が恋人でも見るように目を細めて説明する。
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辺りを見渡すと、あまり馴染みのないマシンばかりが並んでいた。
それを一つひとつ丁寧に説明しながら、こう言った。
「うちにあるのは、すべてアメリカへ買い付けに行ったマシンなんですよ。
メーカーによってメリットとデメリットがあるから、
できるだけ効きの強いマシンを基準にして選んでいます。
使い方を間違えるとケガをする可能性はありますけど、
正確に使えば間違いなく効きますからね」
北村代表は、北海道ボディビル・フィットネス連盟副理事長を務め、
柔道や空手などの格闘技を経て、北海学園大学のボディビル部へ入門。
卒業後、ジムの運営を任され、15、16年前にB-ONEを設立した。
トータルで30年くらいは、ジム経営に携わっている。
ちなみに大東流合気実践あらい道場の師範代でもあるようだ。
ふと転がっている太巻きのようなダンベルを見て、驚く。
一体、何kgあるのだろうか?
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太巻きダンベルの視線に気づいた北村代表は、
「これは気になるよね。片方で90kgまで増やしてみました。
試してみますか?」と、からかうように笑う。
片方で90kgと言うことは、両方で180kg!
挑戦する人はいるのだろうか⁉
そんなことを考えていると、北村代表のスマホが鳴った。
こちらをちらと見ながら電話に出ると、
「おお、久しぶり。今から? いいよ」と言って通話を切った。
そして、
「これからドラゲーの選手が来ますよ」と呟いた。
ドラゲー……、どうやらプロレス団体「ドラゴンゲート」の選手が
トレーニングに来るようだ。ジムの壁にはボディビルだけではなく、
プロレスの大会ポスターもたくさん貼ってある。
ポスター以外にも、プロレスラーのポラロイドがサイン入りで並び、
関係が深いのだろう。
「みんな身体を鍛えたいんでしょうね。
団体を問わずにプロレスラーがよく来ますから。
うちはね、筋トレという味を突き詰めて行きたいんです。
それぞれトレーニング方法について好き嫌いはあると
思いますが、ここは癖が強いマシンで鍛えるところです」
北村代表と雑談をしていると、しばらくして堀口元気選手が到着した。
「会長、またお世話になります」
「よく来たね。うちは金は出せないけど、
うまいものを食わせることはできるから」
談笑しながら、堀口選手が慣れた感じでトレーニングを開始した。
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トレーニングの合間にコメントを求めると、堀口選手は快く対応してくれた。
「年に2回くらい札幌で大会がありまして、その度に、
ここでトレーニングをさせていただいています。
会長とは、もう長い付き合いになりますね」
黙々とトレーニングに取り組んだ堀口選手は、笑顔でジムを後にした。
入れ違うようにKagetora選手が現れた。
チームが異なる二人のニアミス。
彼も、慣れた感じでマシンと会話する。
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休憩している時に話しかけると、気さくに答えてくれた。
「なぜ、ここに来るか? これだけのマシンが
揃っているジムは、なかなかないですからね。
札幌に来た時は、時間をつくって足を運んでいますよ」
ちなみに同ジムは、フィジークでジュニアの世界チャンピオンに
なった小沢亮平選手がいる。ボディビルの全日本チャンピオンを
育てるのが当面の目標のようだが、そこまで大会には拘っていないとも言う。
「うちは、鍛えることが好きな方たちが集まっています。
大会も大事ですけど、それはあくまでも鍛えていく中での
選択肢のひとつ。鍛えることの楽しみを知っている方々と一緒に、
筋トレ道を歩んで行きたいですね」
その言葉には、頑固オヤジの愛情がたくさん詰まっていた。
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【動画】ドラゲー堀口・KAGETORA@B-ONEジム
取材・撮影/松井孝夫