一つのことに一生懸命になる、それは誰にも負けない【横川尚隆インタビュー~王者が見据えるその先は?~#3】




2019日本ボディビル選手権で優勝し、新王者となった横川尚隆。11月の世界選手権でも4位入賞を果たした彼だが、2020年は大会不出場を宣言済み。果たしてその真意とは、そして彼が見据えるものとは?全5回に分けて掲載するインタビューの3回目となる今回は、王者が誕生した原点を探っていく。
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人生で初めて真剣になれたのがトレーニング

――2017年にインタビューした際に、横川選手がトレーニングを始めたきっかけは伺っていますが、日本一に辿り着いた原点を探るべく、改めて振り返っていただきたいと思います。
最初にトレーニングをはじめた頃はスポーツの専門学校に通っていて、そこにたまたまジムがあったんです。そこでなんとなく筋トレを始めて、しばらく経った頃に、せっかくトレーニングしたんだし、まずはフィジークの大会に出てみようと思ったんです。

――大会に出るというのは、初心者であればなかなか勇気のいることのように思います。
半年ぐらい趣味としてトレーニングをやった後に出場したんですけど、やりはじめだったということもあって確実に大きくなっていたし、もっと本気でやればもっとデカくなれる、これは勝てるなって思っていました。とにかく何かで一番になりたいっていう思いもありました。あとは……目立ちたかったんです(笑)。はっきり言ってそれまで何をやっても続かなかった人生で、すべて中途半端で、遊んできたので……夢中になれるものが今までに一つもなかったんです。

――ちなみに、それまではスポーツなどはやっていたんですか?
中学の頃から野球をやったり格闘技をやったりしていました。やっぱり相手があるスポーツなので、その頃から勝負に対するこだわりというのはめちゃくちゃ強かったと思いますし、当時から「優勝以外は全て負け」だと思っているのはずっと変わっていません。

――でも、それはあまり続かなかった。
そうなんです、行ったり行かなかったりで、やりたくなったらやるっていう感じ。ただ、筋トレはなんとなくはじめたんですけど、楽しくてずっと続けられたんですよ。自分が楽しいと思えるもので、優勝して目立てるなら、それが一番いいなって思えて。それまでの人生の中で初めて真剣に続けられたのがトレーニング。だから、それで日本で一番を目指せるのであれば、これをやっていこうと思うようになりました。

――筋トレを続けていた先に、ボディビルとの出会いがあった。
そうですね。あくまでトレーニングをするのが楽しくて、それで日本一を争えるのがボディビルだったという感じです。

――ボディビルとの出会いという点では他の選手たちとそう変わらないように思いますが、トレーニングのやり方という点で何か違いがあったのかなと思います。トレーニングの情報というのはどこで得ていたんですか?
始めたての頃は、とにかく知っている種目をやるとか、ジムにあるマシンを全部やるとか、そんな感じでした。それを満足するまでやっていただけで、「今日はこれやる」とかは特に決めていなくて。

――感覚でやっていた、ということですね。
そうですね、自分の感覚がほとんどです。ただジムにいる人に聞いたりは今もしますよ。気になったりわからないことがあったら聞く、そういう姿勢は必要だし、そうしなくなったら成長はないと思っています。ただ、ネットとかはあまり見ないですね。実際にやっている人に聞いて、真似してみて、良かったら取り入れてみたりはしますけど、「俺は俺」っていうタイプなので。海外の選手の動画とかは見たりするんですけど、その人と俺は違うし真似したってどうしようもないから、単純に見て楽しむだけですね。

兄の姿を見て成功のためのやり方を理解した

――王者・横川尚隆のパーソナリティが作り上げられていくうえで、家族のことを少し聞かせてください。お兄さんが2人いるんですよね。
そうです。うちは兄貴2人だけでなく家族みんな、けっこういい職についているんですけど、なぜか俺一人だけ学生の頃から頭が良くなかったんですよ。小さい頃は勉強する気もなくて、筆記用具もほとんど持ったことないぐらいで。ただ、勉強ができることの“頭が良い”と、生きるための“頭が良い”っていうのは違うと思っていたので、「俺には勉強は必要ない」と考えていました(笑)。

――それでも、日本一という他の人にはできないものを達成できた。
もちろんそうやってきた結果、大学も行けなくて、職にもつけなくて……。ずっとバイトをしながら遊んできたんですけど、だんだんと、不甲斐なさを感じるようにはなっていました。そんなときにちょうど母と二人暮らしをすることになって。ずっと迷惑をかけていたこともあったし、何かしらで喜ばせたいなという思いはありました。そういう中で出会ったのがトレーニングやボディビルだから、途中でやめるわけにはいかないし、これしかできないと思ったんです。だから誰よりも全力を注ぐことができたのかなっていう気はします。

――こうやって話を聞いていると、すごくいろいろと考えながら生きているんだなという印象を受けます。
すごく直感に頼って生きていますけどね。ただ、ずる賢さみたいなのはあると思います。兄貴たちが受験や就職するときの姿を見ていたんですけど、ずっと部屋に籠りっきりでそれに集中していたんですよ。何かを達成するためには「誰よりもやらなければいけない」っていうのをその姿から感じたし、兄貴たちを見て、成功のためのやり方みたいなのを何となく理解するようになったのかもしれません。

――それがあったから、日本一という目標も達成できた。
まぁ逆に言えば、興味がないことはまったく知らないんですけどね。一般常識とかも全然わからないし、みんなが当たり前に知っていることを知らないこともたくさんあります。だけど、一つのことに一生懸命になるっていうことに関しては誰にも負けないですよ。

――今回日本一になったことで、ご家族や武井トレーナーに恩返しすることができましたね。
日本一になれたからとりあえずは返せたとは思いますけど、正直、何をしても返しきれないって思うぐらい恩があります。だからこそ、一生大切にしていられると思います。

★次回は、今後の目標などを聞いていきます。

横川尚隆(よこかわ・なおたか)
1994年7月生まれ。東京都出身。身長170cm。2015年に本格的にトレーニングを開始し、オールジャパン・メンズフィジーク選手権172cm級で優勝。その後、ボディビルに転向し、2019年の日本選手権で優勝。最近では『アウト×デラックス』『ホンマでっか!?TV』(ともにフジテレビ系列)など、バラエティ番組などにも出演している。
【主な大会実績】
・2014年 ベストフィジークジャパン ミスターベストフィジーク2位
・2015年 オールジャパンメンズフィジーク172cm以下級優勝
・2016年 JBBF 日本ジュニアボディビル選手権優勝、IFBB 世界ジュニアボディビル選手権2位
・2017年 JBBF 日本クラス別ボディビル選手権80㎏以下級優勝、JBBF 東京ボディビル選手権優勝、JBBF 日本ボディビル選手権6位
・2018年 JBBF 日本ボディビル選手権2位
・2019年 JBBF 日本ボディビル選手権優勝、IFBB 世界ボディビル選手権4位

インタビュー/木村雄大、ちびめが 写真/矢野寿明

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