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【免疫とは何か? #5】脚光を浴びる免疫療法

新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大するなか、免疫のスペシャリストである順天堂大学医学部の三宅幸子教授にその機能をわかりやすく解説していただく特別インタビュー。第5回目は、ノーベル賞受賞の話題もあり一躍脚光を浴びはじめた免疫療法について。

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■ノーベル賞を受賞した免疫療法の研究

――免疫をより身近に感じるためのホットなニュースなどがあれば、ぜひご紹介してください。

三宅:最近では、がん治療で「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる薬剤が登場し、世界中で注目されています。これは、体内に元々ある免疫を活性化してがんを退治しようとする、これまでの抗がん剤治療とは異なるアプローチです。

――チェックポイント?

三宅:2018年、本庶佑京都大学特別教授と、米テキサス大学のジェームズ・アリソン教授がノーベル医学生理学賞を受賞しました。受賞理由は、「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」です。それ以前の免疫療法というのは、あまりうまくいかなかったのですが、この研究によって免疫細胞の働きにブレーキをかける分子の研究が進み、それらのブレーキをかける分子を免疫チェックポイントと呼ぶようになりました。免疫チェックポイントを阻害する薬を使うことによって、がんに対する免疫が高まり、がんの治療につながったのです。

――それによって、免疫療法が一躍脚光浴びるようになったわけですね。と同時に、がん治療に新たな選択肢が加わった。

三宅:免疫力を使ってがんを治療するという分野が新しくできたという点で高く評価され、ノーベル賞受賞につながりました。

がん治療に免疫療法が新風を吹かせる? SciePro-stock.adobe.com

――免疫チェックポイントを阻害することで、何か副作用はないのでしょうか?

三宅:免疫機能を上げれば、がん細胞の排除を促進できるのですが、免疫反応が過剰になると、今度は本来攻撃しないはずの自己の成分を攻撃してしまうことがあります。これを自己免疫疾患といいます。

――関節リウマチや1型糖尿病のような疾患ですね。がん患者の方に対しては、非常手段をとらなければならない。一方で、過剰な免疫反応には気をつけなければいけないと。

三宅:チェックポイント阻害剤で起こってくる自己免疫は、通常みられるものと少し違うので、注意しておくことも大切です。一方、チェックポイント阻害剤の効果が腸内細菌の違いによっても変わってくるという研究もありますので、今後研究が進むと、食事療法との併用などもあるかもしれません。

――免疫が体の反応である以上、その研究が進むと治療法そのものが変わっていく可能性も高いわけですね。

三宅:がんだけではなく、自己免疫の治療についても、免疫の研究で飛躍的に発展していて、多くの患者さんがその恩恵を受けています。さて、もう一つのトピックとしては、感染症などのように外から侵入してきた病原微生物に激しく反応するのとは異なり、私たちの体のなかでダメージを受けた細胞が出す物質に反応して起こる炎症が、「自然炎症」とよばれ注目されるようになっています。熱が出たり、痛みが出たりといった症状がない穏やかな炎症ですが、気がつかない間に時間をかけて進行していくものです。動脈硬化を含むメタボリック症候群やアルツハイマー病などの背景に、このような炎症があるのではないかと考えられています。

免疫研究の発展が医療現場を変えていく可能性もある。 Monet-stock.adobe.com

――それも免疫反応の一つなんですね。

三宅:そうです。かつては免疫は感染症と戦うシステムとして研究されてきましたが、近年では自己免疫やアレルギーなどのような過剰反応の研究が盛んに行なわれています。そして最近では、がんやこれまで免疫とは関係がないと思われていた動脈硬化や神経の病気にまで免疫が関係していることがわかってきているのです。医療現場においても今後ますます免疫というシステムを理解し、制御していくことが求められています。

■自粛期間中に免疫を落とさないように

――ノーベル賞受賞の話題もあり、免疫の研究もますます進んでいきそうですね。

三宅:はい。そして、それはこれからの超高齢化社会において非常に需要な意味をもつと思います。免疫は、微生物などの外界からの侵入者から身を守るための防御機構であることは、これまでに述べた通りです。しかし本来攻撃しないはずの自己成分を攻撃してしまうとか、本来反応しないはずの花粉などに過剰に反応してアレルギーを起こしてしまうなどの問題があることもわかってきました。免疫は、なくすこともできないし、暴走されても問題が起こるので、バランスのよさが重要です。神経、内分泌とならび高度で複雑なシステムですが、一般の方々も基礎知識は理解しておくとよいと思います。

――4月7日、政府より緊急事態宣言が発令されました。現時点では5月6日とされていますが、この自粛期間をどう過ごすかによって免疫にもさまざまな影響が生じてくるのではないでしょうか。ぜひ先生からアドバイスをお願いします。

三宅:この宣言の目的は、新型コロナウイルス感染を広めないためにヒトとヒトとの接触を防ぐということなので、そのためには外出せずに家にいてくださいということです。それでは自宅でどのように過ごすかですが、免疫を落とすようなことをしないということです。リラックスして、栄養のバランスのよい食事をして、睡眠を十分とることです。自分で好きなこと、やりたくてもやれなかったことにトライするなど、発想の転換をしながら家で楽しむ方法を見つけてください。何か新しい発見があるかもしれませんよ。また、適度な運動をすることもよいので、一人で散歩するなどはよいと思います。私は一人で太極拳をやって身体と心をほぐしています。皆さんが免疫を正しく高めて、元気に過ごしていただけることを願っています。

<第6回に続く>

三宅幸子(みやけ・さちこ)
東京医科歯科大学医学部卒業。順天堂大学付属順天堂医院で内科研修後、同膠原病内科に入局し順天堂大学内科系大学院修了。米国Harvard Medical School, Brigham and Women’s Hospital・博士研究員・指導研究員、 国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部・室長を経て、2013年より順天堂大学医学部免疫学教室・教授。

取材/光成耕司