新型コロナウイルスの影響により、自宅トレーニングが脚光を浴びている。本サイトのライターで、パーソナルトレーナーの資格を持つ木村卓二さんも、自宅トレーニングを実践する1人だ。木村さんが暮らす都心某所のワンルームは、膨大な書籍や資料などが溢れかえり、玄関から寝室へのルートは、まるで獣道のよう。まさにオトコの独り暮らし……。聞けばなんと、そんな狭い(失礼)部屋に懸垂マシンを導入するという。これ以上モノを増やすことが本当にできるのか? 木村さん本人に、捨て身のリポートをしてもらった。
ホームジムを設置している少数派もいるが、大半の人たちにとって、自宅トレーニングと言えば、自重トレーニング。代表的な自重トレーニング種目は、スクワット、腕立て伏せ、腹筋、そして懸垂であろう。
ところが、筆者の住まいには、懸垂に適した水平の物体が何もない。普段、掃除が行き届かず、ホコリが溜まってしまうような場所は、カーテンレールとエアコンのみ。どちらも、かろうじて指をかけられる程度で懸垂に向かない上、ぶら下がれば壊れることは目に見えている。退去時の弁済は避けたいので却下。
建物全体を見ても、水平でぶら下がれるようなものは皆無。階段の手すりも、剥き出しの鉄骨も、何もない。上の階の部屋の窓の桟に手をかけられそうだが、壁に身体が付いてしまい、懸垂には向いていない。うっかり目が合ったりしたら、驚かれて大声を出され、こちらも驚いて落下しかねない。何より、変質者の不法侵入と誤解されて、通報されてしまいそうだ。
そこで、近所を視察。飛沫感染を避けるべく、誰もいないであろう朝5時過ぎに、徒歩1分の公園へ。餌を与えるおばさんと遭遇、野良猫の大群に囲まれるという想定外の異様な状況下、鉄棒を発見。だが、高さ1m程度で、懸垂ができない。
5分ほど歩き、別の公園へ移動。滑り台など複数の遊具が合わさった複合機に、ちょうど良い高さのバーを発見、嬉々として懸垂を行なう。だが、自宅で別種目も行うことを考えると、移動で長くインターバルが空いてしまうのが宜しくない。
その公園からの帰宅途中、より近い建物の外壁工事の足場を発見したが、これにぶら下がっているところをオーナーに見つかったら、やはり通報されてしまいそうだ。加えてこのご時世、作業用の厚手のゴム手袋を着用とはいえ、外でモノに触れることは、感染防止の観点から望ましいものではない。
そこで筆者は決意した。「温故知新」(言葉の使い方を間違えている気がするが)、古典「ぶら下がり健康器」、別名(?)懸垂マシンを導入しよう、と。その昔に流行したぶら下がり健康器、購入した大半の家庭では、それが室内物干しなり衣類掛けと化していた。だが、それ活用と考えれば、すでに導入の意味があるとも言えるだろう。多分。
強力な突っ張り棒タイプの懸垂バーも市販されていて、こちらのほうが安い。だが、筆者の部屋の室内、突っ張り棒が設置可能な場所は、広すぎるか、もしくは懸垂には向かない狭さかのどちらか。まさに「帯に短し襷に長し」状態だ。また、懸垂バーの耐可重量、125kgや200kg、メーカーによっては300kgと記載されているのだが、外れて落下する映像を見たことがあるため、選択肢から除外した(どこのメーカーの物かは不明)。
結果、フリーランスの筆者にとって、収入が激減しているこの時期の出費は痛いが、パッド付きでレッグレイズができ、さらにはディップスもできるタイプの懸垂マシンを購入の運びとなった。
確かに重いらしく、梱包のヒモが、段ボールに食い込んで若干痛々しい。23kgあるらしい。
不在の際、この「重量超過」の物体を持って無駄に階段を下りるのを避けたかったのであろう、宅配業者のドライバーさんから配送直前に電話をいただいた。超過料金などは徴収されていないが、何に対しての超過なのかは不明だ。
このスペース、整理整頓は必要なのだが、他の場所に移すよりも、結局はこの位置が適切なモノばかりなのだ。加えて、移動は大ごとだ……。
ベランダに置けなくもなさそうだが、人目について若干恥ずかしい。それに、雨風ホコリで汚れそうなので、やはり室内に置きたい。寝室というか書斎というか、ともかく部屋……、ここしか選択肢はない。
最初の作業は、土台部分の組み立て。やたらに部品が多く、どれがどれだか混乱するが、土台部分に関してはシールが貼ってあり、すぐに取り出すことができた。
それにしても、「変形があった時は熱湯につけて温めてから再度、試して下さい」って……。
実際、すんなりはまらなかったが、幸い、少し叩く程度で組み立てることができたので、熱湯加工せずに済んだ。
が、ここで早速問題が。サイトには「幅約1,000mm×奥行約720mm×高さ約1,800~2,100mm」と記載されていたが、幅と奥行きが逆ではないか!
この場所で窓に向けて設置してしまうと、筆者が就寝時に使用しているセミダブルサイズのマットレスが敷けなくなってしまうのだ! 何しろ、反対側は書籍資料がひしめき合い、動かしようがない。
縦横を入れ替え、窓と並行に置くことも考えたが、TVの裏というか横というか、ベランダ側のスペースを選択することに。
取り扱い説明書には、QRコードがある。組み立ての説明動画のリンクに飛ぶことにあっているはずなのだが、削除されているではないか!
まあ、動画を見なくても、それほど難しい作業ではなさそうだ。気を取り直して、ひたすら組み立てる。ねじ穴が異常に固い場所が1つあったが、強引にある程度奥まで締める。次に引っ越す時の分解で苦労しそうな予感がするが、まあ、このまま運ぶという手もあるので、気にしないことにしよう。
以後、黙々と作業を進め、とくに大きな問題に遭遇することなく、作業完了。
180cmから5cm刻みで210cmまで高さの調整が可能。サイトには「8段階高さ調節」と記載されているが、7段階の間違いではないかと……。ともかく、ハリとエアコンにぶつからない高さを選択。
さらに、もともとこの位置に設置していた室内物干し用の長い突っ張り棒ともぶつからないよう、位置を調整する。
さっそく使用してみる。懸垂はまったく問題なし。懸垂の補助用として付いてきたレジスタンスバンドは、セットを重ねた際に重宝しそう。ラットプルダウンや、上腕三頭筋のトレーニングにも活用できそうだ。
レッグレイズも行なってみる。23kgという重いのか軽いのかよくわからない重量だが、マシンには安定感がある。ディップスでの使用にも問題なし。
腕立て伏せ用のバーが、部屋が狭くスペース不足のため使用不可。まあ、この機能は最初から求めていないので、惜しくもなんともない。
そして、最後に、物干し機能もチェック。懸垂用のバーだけではなく、多彩な物干し機能に感銘を受けてしまう。
部屋の収納(?)にも貢献してくれそうだが、懸垂時に衣服の重量分の負荷を追加することは望んでいないので、そういう使い方は避けることを心に誓うことにした。
COVID-19が終息したらどうするか?
①中古で売りに出す、②物干しに使用、この二択?
否、おそらくレッグレイズで頻繁に使用し続け、雨でジムに行くのが億劫な日に他の種目でも活用、そんな感じになるのだろう。
何にせよ、この緊急事態宣言下の外出自粛期間のトレーニングが充実することは間違いない。
だが、トレーニングよりも、この汚い部屋には、断捨離と整理整頓が先決という気がしてきた。そんな当たり前のことを切実に感じるようになったことが、この懸垂マシン導入の最大の効果なのかもしれない……。
文・写真/木村卓二(きむら・たくじ)
本業はTVディレクター。複数言語に通じ、ラグビー日本代表スクラムコーチ通訳(フランス語)、ラグビーW杯Broadcast Venue Manager、FIFA W杯Broadcast Liaison Officerなども歴任。世界各国のStrength & Conditioningコーチに感銘を受け、究極のトレーニングを求め、取材と研究に勤しむ。認定フィットネストレーナー資格を持ち、格闘家などへの指導も行なっている。