レスリングの“つりパン”は是か非か【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第116回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか?

突然ですが、「レスリング」と聞いて何を思い浮かべますか? 頭に浮かぶのは“つりパン”と呼ばれるユニフォームではないでしょうか。現在は選手が着用するユニフォームは“つりパン”とは形が異なり、「シングレット」と呼ばれる上下一体型のワンピースです。とはいえ、一般的には“つりパン”のイメージが強いような気がします。

このユニフォームについて、レスリングのシドニー五輪フリースタイル63㎏級代表で、総合格闘家としても活躍した宮田和幸BRAVE GYM代表が、Twitterで「前から思ってたけどレスリングはシングレット廃止してラッシュガードとショーツにすれば人気あがるはず。フィジークが人気出たように」とツイート。これを受けてリオデジャネイロ五輪女子48㎏級金メダリストの登坂絵莉選手や、昨年の世界選手権グレコローマンスタイル60㎏級王者の文田健一郎選手らが賛同の意思を示すなど、レスリング界隈でちょっとした話題となり、ネットニュースにも取り上げられました。

私もレスリングを10年以上やってきて、長年つりパンを着用してきた身として言わせてもらうと、確かにカッコよくはないですよね。宮田氏やトップ選手は問答無用にカッコいい体をしているので、つりパンだろうがシングレットだろうが、何を着ても似合います。しかし、これからレスリングを始めようという子供や部活で始める学生は、最初からカッコいい体をしているわけではないので、シングレットを着こなすのはハードルが高いと言えます。宮田氏は別のツイートで「一般の人にとっては罰ゲームみたいなもの」ともつぶやいています。たしかに私が学生の頃は、「つりパンが恥ずかしい」という理由で入部を拒否する学生もいました。どうせならカッコ悪いよりカッコいいほうに憧れますよね。

レスリングは全身運動であり、柔軟体操やマット運動、コーディネーション、基礎体力トレーニングなど、子供の運動能力を高めるのに最適な運動がすべて詰まっているため、幼少期から始めるとかなり運動神経が良くなります。また、試合は1対1の闘いなので度胸もつきます。子供が最初に始める運動としてかなりオススメなのですが、シングレットがカッコ悪いという理由で敬遠されるとしたら、あまりにも残念なことです。

レスリングが盛んなアメリカでは、シングレットがカッコ悪いといって中高生が競技を敬遠する傾向が見られるため、ラッシュガードとボードショーツに切り替える動きもみられていると言います。そもそも練習のときはシングレットを着ることはなく、Tシャツや短パンなのだから、着るものは何でもレスリングはできます。赤・青が何パーセント以上入っていればOKという既存の規定を守れば(あるいは赤・青のリストバンドで対応)、ユニフォームの型を変えることはそれほど大きな問題になるとは思えません。

東京2020オリンピック開催決定直後の2013年には、レスリングは人気がないという理由で、オリンピック種目から除外されかけた過去があります。注目度、人気を高めていくという部分でも、ユニフォームの変更を考えることはありでしょう。

人気面言うと、ルールが難しくてわからないという声もあります。相手を倒す、投げる、抑えるという部分は見た目にもわかりすく簡単ですが、ルール改正やわけのわからないルールが多すぎるのは事実。ただ、細かいルールはやっている選手本人だってどこまで理解しているかわからないくらい複雑なので、お客さんがそこまで理解しなくても楽しめる方法を提案することのほうが大事だと思います。

わかりやすさという部分でオススメしたいのが団体戦です。学生時代、一番盛り上がるのは間違いなく団体戦でした。当時は軽量級から9人(もしくは7人)が順に闘っていき、5勝(4勝)したチームの勝利となります。4勝4敗で最後までもつれたときなどは、大変な盛り上がりとなります。ルールはわからなくても、5勝したら勝ちということがわかれば団体戦は楽しめます。

また、日本人の精神性として、個人種目よりも、団体競技のほうが親しみやすい傾向があると感じています。昨年のワールドカップで盛り上がったラグビーしかり、サッカー日本代表やなでしこジャパン、侍ジャパンしかり。冬季五輪で盛り上がったカーリングも、ダブルスよりも団体戦のほうが盛り上がります。もちろん、個人種目でも高い人気を持つ選手はたくさんいますが、日本選手がみんなで世界と闘うという図式が、競技に興味のない人でも惹きつける要因なのだと思います。だから団体戦なのです。

レスリングにもワールドカップという団体戦の世界大会があるものの、ほとんどメディアで報道されることもなく、一般の方の認知度はゼロに等しいかもしれません。柔道で男女混合団体戦がオリンピック種目になったように、レスリングも団体戦がメディアに触れる機会が増えると、もっと注目度が高まるのではないかと思っています。

団体戦は試合の流れがあるので、個の力で劣る選手が番狂わせを起こすこともあったり、対戦相手との相性によってメンバーを入れ替える駆け引きがあったり、個人戦にはない面白さがあります。軽量級から重量級まで選手が揃うと、ラグビーがポジションによってそうだったように、選手の体型も体格もバラバラ。それぞれの個性を感じて、個人戦で闘っているときよりもパーソナルな部分にも興味が出るはず。いろいろな見方が増えればルールがわからなくても、楽しめるものになると思います。

ユニフォーム問題しかり、ルール面しかり、面白いレスリングの面白さがもっと広まっていってくれたらと思うしだいです。

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。