日々ハードなトレーニングに勤しむ方からサラリーマンや主婦の方まで、すべての人にとって共通して必要なのは休息・リカバリーでしょう。あなたはしっかりと体を休ませることができていますか? 今回、プロアスリートなどに「リカバリー理論」を指導するほか、休養や健康関連を展開する企業のコンサルティングを手掛ける、“疲労回復の専門家”福田英宏先生にお話を聞きました。今回は、「ぐっすり寝るためのお風呂の入り方」について。
お風呂の温度は38~40度に
――前回は、朝にしっかり太陽の光を浴びて体内リズムを整えることが夜の良い睡眠にもつながるとお話いただきました。今回も、良い眠りのために気をつけることを聞いていきたいと思います。
福田:良い眠りのためには、寝る前の準備が大切になってきます。まずは前回、体温が下がってきている状態で眠りにつくのが大切と最初にお話しましたが、これに関しては寝る前のお風呂の入り方が大切です。
――良い睡眠のための正しいお風呂の入り方というのはありますか?
福田:科学的に言えば、お風呂の温度は38~40度くらいにするのが良いと思います。それで10分くらい入ると、第1回でお話した自律神経の副交感神経が優位の状態になっていきます。よく熱いほうがが好きだという方がいて、42度など高めの温度にしてしまうと、逆に交感神経が優位になります。つまり運動をしているのと同じ状態になってしまいます。
――休むためのお風呂にはならないわけですね。
福田:寝る直前にスッキリしたいからと熱めの風呂に入ってしまうと、今まで副交感神経が優位になっていたのに、お風呂に入ることで交感神経が優位な状態になってしまうわけです。その状態で眠りにつくというのは、わざわざ疲労回復しづらくしているということになります。あと、いろいろなアスリートのサポートをするなかで、よく寮などに行って聞いてみても、そもそも何度に設定しているのかわからないというところもあるので、一般の家庭であれば温度は気にしてほしいなと思います。
――お風呂に入る時間やタイミングも気にした方がいいですよね?
福田:はい。40度前後で10~15分程度のお風呂に入ると、体の深部体温が下がってくるのがだいたい90分後くらいになります。この状態で眠りにつくのは非常に良いので、寝る90分前くらいにお風呂に入るのが良いでしょう。これが42、3度くらいだとだいたい2、3時間は深部体温が下がるのにかかってしまいます。体がポカポカした状態で眠りにつくと寝苦しいですし、疲労回復しづらい睡眠となってしまいます。
――これからの時期は、風呂上がりにクーラーの効いた部屋へというところもあるかと思いますが、それでも体温の下がり方はあまり変わりませんか?
福田:多少は違ってくるとは思いますが、体の表面の皮膚体温ではなく体の中の深部体温が大切になるので、そこはあまり変わらないのではないかと思います。やはりこれから夏の時期は暑くなるので、38度くらい、あるいは自分の基礎体温から1度くらい高い温度で入るのが良いと思います。
――例えばですが、帰宅するのが非常に遅いサラリーマンは、お風呂に入ってから寝るまであまり時間を確保できない人もいると思います。そういう方はどうしたらいいですか?
福田:その場合は、深部体温が上がりすぎないように、ぬるめの入浴かシャワーだけで済ませたり、足湯などで手足を温めたりするのが良いのかなと思います。そうすることで体温をちょっとだけ上げて、下がりやすくなります。
――やはり、ただお風呂に入ればいいというわけではないんですね。
福田:そうですね。お風呂の効果としては、①浮力によるリラクゼーション効果、②水圧による血流促進効果、③温熱による自律神経をコントロールする効果とさまざまな良い効果がありますが、やはり疲労回復・リカバリーという観点からはアスリートはもちろん、一般の方にも正しい方法が広まってほしいなと思います。
――入浴の話もそうですが、「休養」というのは誰にも共通して必要なものであるのに、現状では学校などで教わることがなかなかないですからね。
福田:健康の3要素は「運動」「栄養」「休養」だと言われていますが、休養だけが実は学問としてはまだないんですね。だから学校で習うこともないですし、あったとしても、社会人になってセミナーなどに参加してアドバイスを受けたり、こういった形でメディアで情報を得たりというのが多いと思います。私も疲労回復の専門家としていろいろなところでお話をさせていただいていますが、今はまだ少しずつ広がっているのが現状、というところだと感じています。
取材・文/木村雄大
福田英宏(ふくだ・ひでひろ)
株式会社RecoveryAdviser(リカバリーアドバイザー) 代表取締役。プロアスリートをはじめとするスポーツ選手に「リカバリー理論」を指導するほか、休養や健康関連を展開する企業のコンサルティングを手掛ける「疲労回復の専門家」として活動中。これまで指導したスポーツ選手は、プロ野球球団やプロサッカーチームをはじめ、ラグビーやバスケット、バレー、卓球、テニス、ゴルフ、トライアスロンなど多岐にわたる。リカバリーウェアをはじめ、各種サプリ・グッズ等の最適な使用方法をアドバイスしてきた。自身も小学生5年から大学まで本格的に水泳競技に打ち込み、大学卒業後にはトライアスロン日本選手権に出場。また日本山岳耐久レースにも出場している。
●早稲田大学大学院スポーツ科学研究科(修士):研究テーマ『疲労回復ウェアに関する研究』
●睡眠改善インストラクター
●温泉入浴指導員
●Wasedaウエルネスネットワーク講師
●日本スポーツ産業学会 正会員