【Ken Yamamotoの腰痛ゼロ革命】第5回=サッカー選手の職業病、 恥骨の痛みを取る!




”世界を股にかける治療家”Ken Yamamoto(ケン・ヤマモト)の連載『腰痛ゼロ革命』の第5回は、Ken先生が長年取り組んでいるプロサッカー選手の職業病、「恥骨の痛み」にフォーカスする。世界各国で腰痛の治療を続けているKen先生のもとには、様々なプロスポーツ選手からの「痛みを取ってください!」というオファーが舞い込む。中でも厄介なのは、「職業病」。競技をする上で、どうしても患部を酷使せざるを得ないため、治療して痛みを取っても、競技に復帰するとすぐに痛みが再発してしまうやっかいな問題だ。Ken先生は、この難題をどう対処したのか⁉

普段(コロナ禍以前は)、タイの首都バンコクを拠点としているKen先生。地元のプロサッカーチームにお願いされて、選手たちの痛みの相談・治療にもあたっている。

 

サッカー選手たちに多いのは、「恥骨の痛み」。かつては、中田英寿や中村俊輔も悩まされたという職業病でもある。Ken先生は、恥骨の痛みを次のように説明する。

 

「恥骨筋や恥骨の周辺に痛みを抱えている人は、グローンペイン症候群(鼠径周辺部痛症候群)が多いです。古くから付き合いのある黒部(光昭)選手は、現役生活のほとんどを、その恥骨痛に悩まされていました」

 

※黒部光昭(くろべ・てるあき):元プロサッカー選手、Jリーグ(J1・J2)通算93得点をあげた元日本代表FW。現在はJリーグ・カターレ富山の強化部長を務める。

 

Ken先生の説明によると、彼のように恥骨結合炎に悩むサッカー選手は、ある共通する蹴り方を多用しているケースが多いという。

 

「例えば、インサイドキックを多用したり、カーブをかけるためにボールをこするように蹴る動作を何度もやると、恥骨を痛める確率が高くなります」

 

 

痛みのメカニズムは、こうだ。

 

「ボールを蹴る動作を見ると、テコの原理が働いています。足の一番端にボールがドーンと当たると、どこが収縮するかといえば、その蹴り足の根元になります。蹴った時の反動が、根元に多くかかってくるんです。

 

その結果、内転筋が収縮してしまい、いつも引っ張られた状態になりますので、蹴るたびに、恥骨周辺に痛みが走ってしまうんです。黒部選手が、その典型的な例でした」

 

何千、何万回とボールを蹴るたびに、サッカー選手の体には想像以上の負担が掛かる。とくにピンポイントで蹴るインサイドキックなどは、恥骨周辺への負荷がかなり多く掛かってしまうのだろう。

 

「恥骨周辺の痛みがある人を触ってみると、骨が出っ張ってるような感じで、変形して盛り上がっているんです。筋肉が何度も何度も引っ張られるうちに、骨が少し剥がれてくる感じですね。

 

『オスグッド』という、発育期のスポーツをしている子どもが、ヒザのお皿の下が腫れて、正座ができなくなる骨軟骨炎があります。それと同じ感じで、骨が出っ張ってきてしまう。そういうサッカー選手が多いんです」

 

黒部選手もプレーをするたびに恥骨に痛みが走り、Ken先生のもとを訪れていたという。そこでKen先生は、まず体を調べることから始めた。

 

「痛む箇所を聞いていって、僕の『テクニック』で色々と調べて、骨盤が傾いていることが分かりました。まずは骨盤を真っすぐに正常な位置に戻して、少しずつ痛みが変化するところから診るようにしました」

 

再現してみると

腰骨の位置が左右で明らかに違う。

 

寝た状態を見ても、右足が縮んでいて、左右の足の長さに違いが生じている。

「右側に傾いているということは、右側の内転筋が縮んでいるわけです。ですから、まずは縮んでいる内転筋を広げてあげます。また、反対側から押し出している可能性もありますので、左側の筋肉を緩めるようにしました」

縮んでしまった筋肉を緩めていく「ケンヤマモトテクニック(KYT)」には様々な手技があるが、ここではもっともベーシックなやり方を見せていただいた。

「筋肉が縮んでいる箇所を見つけて、手技を行なって動きを付ける」

モデルとなった編集者が、思わず「痛い!」と叫んだ。

「縮んでいるところは押すと痛いんです(笑)。痛みがあるということは、そのポイントは縮んでいるということです。そこを押したり、動かしていくと柔らかくなっていきます。だいたい3回くらい、この動作を繰り返すと痛みは無くなってきます」

 

Ken先生は、ありがちな「ボキボキ」と音を鳴らす整体のやり方は一切しない。その理由も語ってくれた。

 

「“ボキっ”とはやらないですね(苦笑)。音をボキボキと鳴らしただけで、痛みが取れるのならばやりますが、この場所に効果があると思えないからです」

 

少し脱線したが、黒部選手のようなサッカー選手の場合、骨盤の傾きを真っすぐにしただけでは、すぐに痛みが再発することも珍しくないという。

 

「例えば、骨盤が傾いて、右側が下がっている場合、左足には体重が乗らないんです。ですから、左足にもちゃんと体重を乗せる歩き方に調整します。そうしないと、また痛みが出てしまいます。

 

あとは、休ませることです。黒部選手の場合、僕のところに来ると毎回、『痛みが消えました』といって帰るんですけど、またサッカーをすると痛みが出てしまう。だから、適当な期間、休む時は、徹底的に休ませないとダメですね」

 

こうして黒部選手は、痛みを克服した。

 

また、恥骨筋のみ頼った蹴り方をしていると、当然、患部が引っ張られる。長短内転筋や腸腰筋のエクササイズもインサイドキックで使う筋肉のため、力の配分をいろいろな筋肉でサポートすることが、ポイントとなる。

 

「適切な骨盤の環境を整えて、骨盤を適切な位置に戻すことと、適切な休息。休ませることが、早く治るきっかけにもなります。ただ、不思議なんですけど、痛みがなくなっても、骨のボコっという出っ張りはそのままでした。先ほど話したオスグッドも出っ張ったらそのままですからね。一度、骨が出っ張って固まると、もう戻らないようです」

 

セルフケアとしては、自分で「痛みがある箇所」を探して、そこを押さえながら両ヒザを揃えて、左右に動かす。これで縮んだ骨盤は弛んでいく。

 

「3回くらいやれば、柔らかくなってきて、動きがスムーズになるのが分かると思います」

 

なお、痛みが強い人は無理をせずに、病院や治療院の受診を。

 

(次回に続く)

 

取材・撮影:茂田浩司

 

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Ken Yamamoto
東京都出身。東海大学体育学部卒業。中学・高等学校保健体育科教員1級免許取得。23歳で治療院開業。27歳で柔道整復師国家資格取得し、整骨院を開業。30歳で目黒区医師会立看護学校卒業し、免許取得。仙骨専門治療院、整形外科、総合病院整形外科、整骨院、介護センターを経て、整骨院開業。現在は、年間300日以上、海外を中心に解剖学を基に作られたKenYamamotoテクニック(KYT)のセミナー講義並びに大学の授業などを行ない後進の育成にも余念がない。腰痛患者さんの施術を招かれる各国で行なっている。KYTは現在40カ国で使われているテクニックとなっている。