前回に引き続き、背中について考えてみたいと思います。
背中は自身の目に届かない真後ろにあるため、ふだん意識することはほとんどありません。それは呼吸の仕方にもよく表われています。
例えば、写真1の上下の手の幅を腹腔に見立てたとしましょう。
向かって左側(指先側)が体の前面(胸・お腹側)、右側(手首側)が体の後面(背中側)、そして上の手が横隔膜、下の手が骨盤底筋群です。
息を吸うと横隔膜が下がり(写真2)、息を吐くと横隔膜は上がっていき、写真1の状態に戻ります。
息を吸い込む際には、前側も後ろ側も均等に空気が入り込んでいるのが正常な状態です。
ところが昨今、前側でしか呼吸をしていないという人が少なくありません。どういうことかと言えば、背中側にまで空気がしっかりと送り込まれていないのです。なぜ、そうなるのでしょうか?
理由その1は、そもそも骨盤から肋骨につながる腰や脇腹の伸びの悪さなどにより本来可動するはずの下部肋骨が上手く広がらないこと(注意:吸気で横隔膜は下がりますが、肋骨は一緒に下がるわけではなく肺の膨らみに合わせて広がる構造であるから)。
理由その2は、呼吸を意識するあまり努力呼吸になりすぎ、首の前側の筋肉(鎖骨周囲)優位の呼吸となること。
理由その3は、腹筋が弱く機能していない場合、肋骨の制御が難しい状況となり反り返ったポジション(姿勢)となってしまうから、などが挙げられます。
話を元に戻します。したがって、本来の正常な状態(写真1-2)と比べると、呼吸は浅くなります。
ちなみに、空気がしっかり背中側まで行きわたっているかどうかを見極める方法として、両脇腹に手を当てて、鼻から手に空気を送り込むイメージで息を吸ってみましょう。その際、両手は中央に向かって少し押し込むようにします。両手で抵抗をかけることによって、空気はしっかりと送り込まれていきます(写真3)。
いかがですか? 手のひらにその感触は伝わってきますか? あまり伝わってこないという人は、背中は呼吸を忘れた休眠状態であるということかもしれません。そして、それが実は首・肩こりの一つの原因にもなっていると考えられます。
不活動は筋肉をこわばらせてしまいます。つまり、絶え間ない呼吸によって、背中側にまでしっかり空気を送り込むことで、背中の活動をしっかり促してあげることも私たちにとって重要であるということなのです。
そういう意味では、背中本来の特徴を生かすも殺すも、まずは呼吸次第と言えるかもしれませんね。
山本康子(やまもと・やすこ)
鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、コンディショニングセラピスト。施術キャリアは30年。日本代表チームのトレーナーとしてトップアスリートのボディコンディショニングを手掛けてきた。その間、約6年に渡り外国人トレーナーと共にヨーロッパなど各地を転戦した経験によって、日本にはないスピリットを強く感じ、施術テクニックはもちろんのこと、人として現在もなお進化すべく努力を続けている。2004年に、アー・ドライ治療院、2013年に筋膜リリース専門のスカンディックケアを開業。施術者の育成と労働環境整備にも力を注ぐ。
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取材/光成耕司