サプリメント実践的活用のスペシャリストである桑原弘樹さんが、サプリや栄養や肉体に関する疑問を解決する連載。第74回は、たびたび勃発するプロ野球選手がウエイトトレーニングを行なうことの是非について。
■「筋肉をつけるとケガをしやすくなる」は迷信
私はプロ野球選手のウエイトトレーニング推進派のひとりです。
昨年の2020年シーズンは大谷翔平選手の調子がいまひとつでしたので、それをウエイトトレーニングのせいにしないでもらいたいと思うと同時に、ダルビッシュ有選手の活躍は非常に心強いです。
野球の場合は、筋肉によってどれくらいダイレクトに球が速くなるかとか、飛距離が伸びるかといった、パフォーマンスに直結する度合いは微妙だと思います。比率的に「運動依存トルク」という、筋肉に頼らず体全体でつくり出す力(遠心力)の影響力が大きい競技だからです。
かと言って、まったく筋肉が関与しないわけではありません。「関節トルク」という、いわゆる筋肉を必要とする力も当然必要となりますから、とくにプロのレベルになれば人並みでは意味がないわけで、どれだけ伸びしろをしっかりと埋めていくかにかかってきます。
また、筋肉は出力の源ですが、必ずしもアクセルの役割だけではありません。つまり、ブレーキも筋肉の役割になります。例えばピッチャーが全力で投げ切った際に、どれだけ体の踏ん張りが利くかは筋肉の役割でもあります。野手がギリギリのゴロを取って、不安定な体勢から送球する時も筋肉が必要不可欠となります。
よく、筋肉をつけるとケガをしやすくなると言われますが、筋トレに励んでいる選手が走塁の際にケガをすると、筋トレのし過ぎだとか筋肉のつけ過ぎだとマスコミを中心に非難されることがあります。しかし、筋トレをしない選手が同じようなケガをした時に、筋トレをしていないからだという批判は起きません。これは明らかに筋肉への偏見です。
そもそも、つけ過ぎるというほど筋肉はついてくれないのです。オフの数ヵ月の間に必死に筋トレに励んだところで、筋骨隆々にはなりません。もっと長い年月をかけ、薄皮を一枚一枚貼り合わせていくようにして、バルクアップは進んでいくものです。
つまり、太ることと筋肉がついたということを混同しているのです。こういった多くの誤解の一端は、マスコミに原因があるようにも思います。
ウエイトトレーニングの環境がほとんど揃っていなかった数十年前と、最新のウエイトトレーニングが可能な現在と同じトレーニングでいいはずがありません。それに加えてスポーツニュートリションの進化もあり、これからは野球選手がウエイトトレーニングをするのが当たり前になると思います。
桑原弘樹(くわばら・ひろき)
1961年4月6日生まれ。1984年立教大学を卒業後、江崎グリコ株式会社に入社。開発、経営企画などを経て、サプリメント事業を立ち上げ、16年以上にわたってスポーツサプリメントの企画・開発に携わる。現在は桑原塾を主宰。NESTA JAPAN(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会 日本支部)のPDA(プログラム開発担当)。また、国内外で活躍する数多くのトップアスリートに対して、サプリメント活用を取り入れた独自のコンディショニング指導を行ない、Tarzan(マガジンハウス)など各種スポーツ誌の企画監修や執筆、幅広いテーマでの講演会など多方面で活躍中。著書に「サプリメントまるわかり大事典」(ベースボールマガジン社)、「私は15キロ痩せるのも太るのも簡単だ!クワバラ式体重管理メソッド」(講談社)、「サプリメント健康バイブル」(学研)などがある。プロフィール写真のタンクトップにある300/365の文字は、年間365日あるうち300回のワークアウトを推奨した活動の総称となっている。300日ではなく300回であることがポイントで、1日2回のワークアウトでも可。決して低くはないハードルだが、あえて高めの目標設定をすることで肉体の進化が約束されると桑原塾は考え、実践している。