私がヒトの体のケアに携わるようになって、30年になります。
その間、みずからの信念としてずっと心がけてきたのは、「立体感のある人間本来の体への回帰」ということでした。
ヒトの体というのは、それぞれが育った環境や仕事の内容、スポーツ活動の有無など身を置いている環境に徐々に適応していくものです。体にとってよい習慣ならば問題ないのですが、当然、体に対してよくない習慣——それらは不活動によって引き起こされる場合が多い——が積み重なっていくことで、それに対する耐性も備わってきて、いつのまにかそれが普通になってきます。
ヒトとして本来あるべきアライメントであったり、フォルムであったりというものになんらかのひずみが発生すると、疲れやすくなったり、肩こりや腰痛などを引き起こしやすくなるものです。しかし、それはもう当たり前のこととして受け入れてしまう。そう考えると、慣れというものはつくづく怖いものだなと思います。
ケアというのは、この疲れの主要因であるひずみを取り除く、あるいは修復することです。ところがやっかいなのは、体のどこかに弱点があると、その弱点を補おうとほかのどこかの部位が本来の役割ではないにもかかわらず頑張っているというケースがほとんどであるということです。つまり、代役として頑張っている部位ほど疲れが溜まってしまう。したがって、頑張っている部位だけにアプローチしても問題はなかなか解決しないというわけです。
本連載の中で、ケアというのは‟体の考古学”と述べたことがありますが、それは体の歴史をさかのぼっていくことによって、不調の主要因を発見する発掘作業だと考えているからです。
一方、精神的なストレスも体に様々な影響を及ぼすことは、皆さんも体験的によくご存じではないかと思います。じつは私の治療院には、こころの治療を専門とする先生から紹介されて訪れてくる患者さんも少なくありません。そういう方の体を触ってみると、全身ががちがちに固まっていらっしゃる方がほとんどです。ところが、こちらの主要因は‟こころ”ですから、なかなかやっかいです。とはいえ、体がリラックスすると、こころもリラックスするもので、こころと体とはまさに表裏一体であることが、ケアを通じて誰よりも強く感じていることもまた事実です。
体を見れば、性格もわかるというくらいで、体の状態はその人のこころの状態を映し出しているといっても過言ではないほどです。
人生100年時代と言われる中にあって、いつまでも元気でいるために足腰を強化しなければならないことも大事ですが、同時に体の中に疲れを溜めない工夫も大事。そういう意味で、今後、ケアの役割はますます高まってくるのではないかと思っています。
山本康子(やまもと・やすこ)
鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、コンディショニングセラピスト。施術キャリアは30年。日本代表チームのトレーナーとしてトップアスリートのボディコンディショニングを手掛けてきた。その間、約6年に渡り外国人トレーナーと共にヨーロッパなど各地を転戦した経験によって、日本にはないスピリットを強く感じ、施術テクニックはもちろんのこと、人として現在もなお進化すべく努力を続けている。2004年に、アー・ドライ治療院、2013年に筋膜リリース専門のスカンディックケアを開業。施術者の育成と労働環境整備にも力を注ぐ。
アードライ治療院&スカンディックケア
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取材/光成耕司