「優勝は、田上舞子!」
そのコールに会場が大きくどよめいた。この場にいた者の多くが、「安井友梨」の名が呼ばれると思っていたであろう。新たな女王が誕生した瞬間だった。
8/8(日)に東京・北とぴあで行われた第32回ジャパンオープン選手権大会。昨年はコロナ禍で日本ボディビル・フィットネス連盟(JBBF)主催の選手権大会は全て中止となったため、6月のSPORTEC CUPを経て、2019年以来となる久々のJBBF主催コンテストとなった。
今年から女子の競技として新設された「フィットモデル」は、ワンピーススイムとイブニングドレスの衣装を着用してステージに立つのが特徴。基本的なポージングなどはこれまでも実施されてきたビキニなどと同様だが、衣装をまとったうえでの美しく健康的に鍛えられている姿が評価され、より優雅さも求められる競技となっている。
この新競技に波ならぬ決意で挑んだのが、田上舞子だ。普段はトレーナーとして活躍しながら、自身も2019年の東京選手権のビキニで見事優勝を果たすなど実績を残してきた彼女だが、このコンテストに対しては「JapanOpenで優勝できなければ競技の世界から退きます。こう決意できるぐらいFitmodelという競技を誰よりも研究し時間をかけて準備してきました」と自身のInstagramでその熱意を示していた。
その決意の通り、163cm以下級のステージでは、頭一つ抜けて自信あふれる笑顔でポージングを披露。大きな拍手を浴びながら見事なステージングで観客を魅了し、このクラスでの頂点に立つことに成功した。
そして、その先に待ち受けていたのが女王・安井友梨だ。
安井はフィットネス界ではその名を知らない者はいない、絶対的女王だ。2019年まで国内最高峰のオールジャパン選手権のビキニで7連覇中。昨年は大会が中止になったため、一部大会でのゲストポーザーとして以外はステージに立っておらず、久々に彼女の姿を見ることができるのを楽しみにしていた者も多いだろう。自身の新たなチャレンジとしてフィットモデルに出場した安井は、圧倒的な存在感で163cm超級を制し、オーバーオール優勝(総合優勝)の座をかけて田上、そして158cm以下級を制した高橋若葉とのステージに立うことになった。
実際に3人が並ぶと、身長が高い安井に分があるように思えたが、一方で、イブニングドレスを着用したうえでの全体的に調和のとれたボディと優雅さ、トータルでの魅力的な雰囲気は田上も決して引けをとっていない。「劇的に進化した私を見てほしい」と話していたように、あふれる自信がそれを後押ししたのかもしれない。
結果は、田上に軍配。誰もがイメージしていた安井の戴冠が崩れ、大きな驚きが生まれたと同時に、会場は新たな女王の誕生を歓迎するムードに包まれていた。
「この大会に全てをかけて昨年から準備してきました。JapanOpenで必ず優勝して、9月にスペインで開催されるARNOLD CLASSIC EUROPE、そして世界選手権でメダル獲得を目指します」
田上舞子は次の目標に向けて動き出していく。
文・写真/木村雄大