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パワハラ指導が生まれる原因【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第180回】

VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? 日本選手の活躍で大いに盛り上がった東京2020パラリンピックも今日で閉幕です。

 

パラリンピックで明るいニュースが届けられた一方で、スポーツ界では残念なニュースも相次ぎました。Jリーグで立て続けに監督によるパワハラが報じられ、チームのサポーターならずとも不快な思いをしたのではないでしょうか。

 

今回のことに限らず、昨今のスポーツ界では指導者による暴力やパワハラなどがたびたび問題となっています。社会全体でも問題となることの多いパワハラですが、ここではサイトの特性上、スポーツ界におけるパワハラについて考えてみたいと思います。

(C)BBuilder-stock.adobe.com

スポーツ界においては、日本スポーツ振興センター(JSC)が、「同じ組織(競技団体・チーム等)で競技活動する者に対して、職務上の地位や人間関係などの組織内の優位性を背景に、指導の適性な範囲を超えて、精神的・身体的な苦痛を与え、又はその競技活動の環境を悪化させる行為」と、パワハラを定義しています。

 

ここで難しいのは「指導の適性な範囲」という部分でしょうか。暴力は問題外としても、指導者は選手のやる気を引き出すために、時にはきつい練習を課したり、厳しい言葉で叱咤したりすることもあると思います。たとえばレスリングの練習で首の強化のためブリッジをしていて、負荷を強くするために指導者がブリッジをしている人の上に乗ったとします。これはパワハラでしょうか? 選手がケガをしてしまうほどの負荷のかけ方ならパワハラ、負荷を調整しながらゲキを飛ばすなら適性な範囲と考えられます。また、選手の士気を上げるために「死ぬ気でやれ!」とゲキを飛ばしたとします。これはパワハラでしょうか? この言葉で選手が奮起するか、あるいは嫌気がさすか。相手の受け取り方で変わってくると思います。

 

大事なことは「スポーツは何のためにやるのか?」という本質、根本を外さないことです。他者へのリスペクトやフェアプレー精神、あるいは仲間を認め、協力し合うこと、そして一生懸命取り組むことの大切さを知る。これらがスポーツを通じて学ぶべきことです。こうした根本を外して、勝利第一主義になると、度を超えた厳しさから暴力や暴言につながってしまう恐れがあります。

 

もちろんプロの場合、勝利は極めて大事なことではありますが、何をしても勝てばいいという考え方ではいけません。また、学生スポーツの場合は、成長途上の選手も多く、勝利のみを求めると、大きなケガやバーンアウトにつながり、心身ともにプロよりも危険です。そうならないためには、指導者への評価の仕方も考える必要があると思います。

 

指導者に対する評価が結果のみになってしまったら、誰でも勝つためのだけの指導に走ってしまうかもしれません。それを指導者だけの問題と責めるのも酷です。指導者の評価として、将来的に伸びるように指導することや、他者へのリスペクトの精神を伝えること、あるいは礼儀正しい選手を育てることなど、人間性が豊かになるような指導に対しても、結果同様にしっかり評価できれば、結果のみにこだわったパワハラは確実に減るはずです。スポーツを通じての教育に大事なことは、目の前の結果だけではありません。

 

もう一つ、私がコミュニケーションの基本として大事だと思っているのは、相手の感情を意図的にコントロールしようとしないことです。これは指導者と選手の関係に限らず、親と子、上司と部下、先輩と後輩など、上の立場にいる人間は相手をコントロールしようとなりがちです。そして、それがうまくいかないと相手に対してイライラするのです。これもパワハラにつながる原因の一つと考えられます。人の感情は意図的にどうこうできるものではありません。コントロールできるのは自分の感情だけです。それを知っておくだけでも、人との接し方は変わってくるでしょう。

 

失敗を人のせいにしない。100パーセント自分が正しいとは思わない。過剰に成果を求めすぎない。相手に歩み寄る気持ちを持つ。指導者にはこうした考えが大事ではないでしょうか。私自身、選手時代は指導者に恵まれ、試合や練習で嫌な思いをしたことは一度もありません(きつい思いはある)。だから競技が嫌いになることもありませんでした。みんながスポーツを愛せるように、指導者と選手の不幸な関係がなくなっていくことを願っております。

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。