Nスポーツクラブ(大分)#2~プロ野球独立リーグ球団運営に乗り出した、総合型地域スポーツクラブ~




独立リーグとは、一般に知られているプロ野球(NPB)に進めなかった選手が、ドラフト指名を目指してプレーする場だ。高校や大学を卒業後、社会人実業団チームでプレーを継続できる選手はごくわずか。

そういう場からこぼれ落ちてもなお、夢を追い続けたいという選手が集まってくる。正直なところ、プレーのレベルはプロとしては決して高くはない。だから球場にファンを集めてそのチケット代やグッズ代の売り上げで選手に十分な報酬を支払い球団運営するというビジネスモデルはなかなか確立できていないのが現実だ。そんな儲からない商売に森さんはあえて手を出した。

「やっぱりクラブのシンボルになりますから」

自身の所属するクラブにプロチームがあるということはメンバーにとって誇りになる。独立リーグ球団ではあるが、ドラフト指名され、NPBに進む選手が出てくれば、メンバーのクラブに対する思いはますます強くなるだろう。

チーム名は「大分B-リングス」と決まった。「B」とは大分県の「大分」の「分」の字の音読み「ブン」と旧国名「豊後(ぶんご)」に由来する、両者を合わせた「ブンブン」は蜂の羽音にも通じることから球団発足以前より蜂が県のマスコットとして採用されていたのだが、B-リングスもそれにならい「リンビーぶんパチ」という蜂を戯画化したマスコットを採用した。

参入が決まった後、リーグ当局の協力も得てスポンサー集めに奔走。九州で圧倒的な人気を誇るプロ野球球団、福岡ソフトバンクホークスでスコアラーを務めていた廣田浩章氏を監督に招聘し、DeNAなどで活躍した白崎浩之(コーチ兼任)らの選手を集めた。

今年発足したプロ球団、大分B-リングス

リーグ戦は、社会人強豪チームを母体にしたライバル・火の国サラマンダーズに全く歯が立たず、圧倒的な負け越しに終わったが、それでも決して恵まれない財政状況の中、何とかシーズンを乗り切った。それには、Nスポを通じてこれまで培ってきた地元住民との絆が大いに役立ったと森さんは言う。

例えば試合の際の移動について、シーズン当初はNスポが保有するワゴン車を使用していたが、途中からは大型のバスに変わっていた。「貧乏球団」にそんなものを買う余裕はない。それにバスの運転には大型免許が必要で、Nスポと兼任の球団スタッフが運転できるものではない。

「バスマニアがいるんですよ」と森さんはその秘密を笑いながら明かしてくれた。なんでも少年野球のライバルチームの関係者であるバスマニアが、バス好きが高じて中古バスを格安で購入したのだそう。「本物」を手にすれば運転したくなるのはマニアの性。一方で駐車場代もばかにならない。そこで、Nスポの敷地内にバスを置かせてもらう代わりに、試合の際の選手の移動を買って出てくれたらしい。シーズン後半からは、そのバスのオーナーとその友人のもうひとりのバスマニアが交互で選手を試合会場まで運んでくれているそうだ。駐車場を提供したもらった上にバス本来の使い方で運転もできるとあって、持ち主は嬉々としてハンドルを握っているという。球団としても、ガソリン代だけの負担で選手の移動費を削減でき、まさにWIN-WINの関係を地元民と築いている。

それだけではない。総合型地域スポーツクラブが独立プロ球団を持つことは施設の利用の効率化という利点にもつながると森さんは言う。

B-リングスの選手も使用するクラブハウス内のトレーニング器具

B-リングスの選手の大半は、Nスポランド近くの一軒家を借り切った寮で暮らしている。シーズン中はその寮と練習場のあるNスポ、そして試合会場を行き来するだけの生活だ。周囲に歓楽街もない野津原の環境は選手たちを「野球漬け」にするには理想の場所だと言っていい。

選手たちは日々の食事もNスポのクラブハウスでとり、ウェイトトレーニングもハウス内の器具を使って行なえる。さらに言えば、大分に遠征に来たビジターチームは、Nスポが管理する食事付きの宿泊施設に宿を取ることもできる。一般市民向けに大分市が建てた「公共の宿」である宇曽山荘の宿泊費はホテルの半分ほど。乏しい資金で運営する小規模プロスポーツである独立リーグと総合型地域スポーツクラブのコラボレーションという壮大な実験を今、Nスポは行なっている。

試合の後、クラブハウスに戻り、夕食をとるB-リングスの選手たち

とはいえ、年間数千万円の運営費がかかる球団経営は苦労も多い。球団代表の肩書も持つ、Nスポ理事長の森さんだがその報酬はゼロだと笑う。

「この田舎で普通に暮らしていく分には全く困りませんから。野球チームも含めてスポーツクラブは未来への投資だと思っているんですよ。私はいつかこの世からいなくなりますが、Nスポーツクラブや大分B-リングスは残っていきます。お金なんて残っても仕方ないですけど、スポーツの場はこの先みなさんが楽しむことができますから」

そう語る森さんの夢は「ボールパーク」の建設だ。現在、B-リングスはNスポ内のスポーツクラブのネーミングの由来となった七瀬川に面した野球場で毎日のトレーニングを行なっている。丘の上の宇曽山荘にも野球場はあるのだが、打球がネットを越して道路上に飛び込む恐れがあるため、プロ球団は使用できない。現在のNスポの野球場はお世辞にもいいフィールドだと言えない粗末なものだが、ここに小さなスタンドを建て、B-リングスの本拠地球場にするのが、Nスポの保有する独立球団の未来予想図なのだ。総合型地域スポーツクラブ・Nスポの挑戦はまだ始まったばかりだ。

Nスポランド内の野球場。森さんの夢はここをボールパークに変えることだ
B-リングスの試合の後、ファンを見送る森理事長

取材&撮影・阿佐智