かつて枝光さんはこんな体験をした。約20年前、スポーツトレーナーとしてアスリートを担当していた時、あるきっかけで、60代の外資系企業の社長のパーソナルトレーナーの依頼を受けたのだ。
「トレーニングを始める時、社長さんに『僕はマッチョになる気はない。健康になって、長く仕事がしたいだけなんだ』と言われて戸惑いました。正直、今までそんな依頼を受けたことがなかったので。
――では、健康で長く会社を続けるために、どんなトレーニングをしたらいいのだろう?とヒアリングをしていくと、『健康について、若い頃と比べて懸念がある』とおっしゃった。月の半分は、アメリカと日本を飛行機で行き来して、時差のせいで鬱っぽくなって、抗うつ剤を飲んでいた。さらに長時間座席に座り続けるために慢性の腰痛になり、それが仕事に支障をきたしていました。
そういった身体の状況を知ったので、通常のトレーニングと内容を変えて、まず交感神経の高ぶりを軽減して自律神経を整えるストレッチや揉みほぐしをしました。そして腰痛に対しては、筋肉の柔軟性を確保してあげたり、血流を上げたり、筋力のバランスを整えるトレーニングを指導したら、社長さんがとても喜んで、トレーニングが長く続いたんですよ。
その時に、『トレーニングはスポーツ選手だけのものじゃない』と気づきました。中高年や高齢者に向けたパーソナルトレーニングは、これからの高齢化社会に絶対に役立つと確信したんです」
ゴールドジムでアスリート向けにパーソナルトレーニングをしていた枝光さんは、一般の方が多く集まるコナミスポーツに拠点を移し、パーソナルトレーニングの営業を開始。……ところが、いくら営業しても人が集まらない。
その頃(20年ほど前)は、『パーソナルトレーニングは高価で特別なもので、芸能人がやるもの』というイメージ。一般の人は、『私たちはジムに通えばいい。パーソナルトレーニングなんて必要ない』と関心を持たなかった。