薬の使用期限はどれくらい? 【ドクター長谷のカンタン薬学】




風邪をひく、頭痛、筋肉痛、二日酔い……日常生活では何かと薬のお世話になる機会も多いもの。薬はドラッグストアやコンビニでも簡単に手に入る時代。だからこそ、使い方を間違えると大変! この連載では大手製薬会社で様々な医薬品開発、育薬などに従事してきた薬学博士の長谷昌知さんにわかりやすく、素朴な疑問を解決してもらいます。
※この記事は2019年に投稿されたものを、再編集してお届けするものとなります。

Q.食品に賞味期限があるように、薬にも使用期限はあるのでしょうか? あるとしたら古い薬を使うと体に悪影響はありますか? また使用期限切れの薬は効かないのでしょうか?

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薬の使用期限は当然あります。医薬品は、製造されてから患者さんが服用するまでのすべての過程において、品質が保たれていることが重要です。倉庫での保管→輸送→病院や家庭での保存という過程で、薬の有効成分が変質したり、分解したりすることがないよう、厚生労働省の発行するガイドラインにより安定性試験を行なうことが定められています。温度や湿度、光などさまざまな環境下で医薬品の経時的変化を明らかにする。この安定性試験を経て、保存方法や有効期間が設定されるのです。

安定性試験によって定められる使用期限は、未開封の状態でだいたい3~5年。一般用の医薬品の場合は、箱に使用期限が明記されているはずなので、確認するようにしましょう。気をつけたいのは、病院で処方される医療医薬品の場合です。処方薬は医師が患者さんの体調や症状に合わせて処方したものなので、必ず飲み切るようにしてください。1週間分もらって2~3日で症状がよくなったとしても、すべて飲み切ることが大前提です。飲み切らずに残った薬を、あとで同じ症状のときに使ったり、他の人に勧めたりはしてはいけません。

たとえばインフルエンザで熱が上がったというときに、解熱・鎮痛だからといって、別の症状のときに処方してもらったロキソニンを服用したとします。自己判断で誤った服用をすると、インフルエンザ脳症を発生して、後遺症が残ったり、最悪の場合は死んでしまったりということも考えられます。目的ではない方法で薬を使用するのは、非常に危険なので絶対にやめてください。

使用期限と同時に注意してほしいのが保存方法です。市販薬の場合は3~5年の使用期限が設定されていますが、それはあくまでも正しい状態で保存された場合のこと。一般的には室内保存の場合は30度以下、冷所保存の場合は15度以下で、凍結する場所での保存は不可とされています。基本的に高温多湿は避けて保存しましょう。

日の当たらない場所に保管するというのは基本です。2~3日程度なら大きな問題はないと思われますが、紫外線を浴びる場所に何カ月も置いておくと、毎日反応していって思いもよらない物質ができてくる可能性もあります。紫外線は怖いので、とくに気をつけてください。

使用期限が切れた薬は効かないのか? あるいは体に悪いのか? 質問に対する個人的な見解としては、市販薬の場合は保存状態がしっかりしていれば、そこまで大きな問題はないと思っています。ただ、市販薬は薬局やドラッグストアで安価ですぐに手に入るので、使用期限が切れている薬を使うくらいなら、新しいものを買ったほうがいいでしょう。とにかく薬は正しい使い方を心掛けてください。


長谷昌知(はせ・まさかず)
1970年8月13日、山口県出身。九州大学にて薬剤師免許を取得し、大腸菌を題材とした分子生物学的研究により博士号を取得。現在まで6社の国内外のバイオベンチャーや大手製薬企業にて種々の疾患に対する医薬品開発・育薬などに従事。2018年3月よりGセラノティックス社の代表取締役社長として新たな抗がん剤の開発に注力している。
Gセラノスティックス株式会社