麻薬ってどんな薬なの?【ドクター長谷のカンタン薬学】




風邪をひく、頭痛、筋肉痛、二日酔い……日常生活では何かと薬のお世話になる機会も多いもの。薬はドラッグストアやコンビニでも簡単に手に入る時代。だからこそ、使い方を間違えると大変! ここでは大手製薬会社でさまざまな医薬品開発、育薬などに従事してきた薬学博士の長谷昌知さんにわかりやすく、素朴な疑問を解決してもらいます。
※本記事は、2019年に公開した記事を再編集して紹介するものとなります。

Q.麻薬は使っていいのですか? 麻薬系痛み止めとはどんな薬なのでしょうか?

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麻薬には医療用に使用が許可されている医療用麻薬と、麻薬及び向精神薬取締法により、使用や所持、譲渡、製造、輸出入が禁止されている不正麻薬(覚せい剤)があります。国内で承認されている医療用麻薬は、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、10%コデイン、タペンタドールなどのオピオイドです。

一方、不正麻薬の代表的なものには、コカイン、ヘロイン、MDMA、LSD覚せい剤、大麻などがありますが、不正麻薬の種類は現在も増え続けています。

がんや慢性的な痛みの治療などで使用されるオピオイド鎮痛薬は、神経系の司令塔の部分である脳や脊髄に存在するオピオイド受容体に作用して痛みを抑える薬の総称です。複雑ですが、オピオイド鎮痛薬すべてが医療用麻薬となることにも注意が必要です。

これらの薬は、痛みの治療を目的に適切に使用することが重要で、使い方を間違えると薬物依存症になったり、脳にダメージが残ったりということが起こる危険があります。

薬物依存には精神依存と身体依存があります。精神依存とは痛みがないにもかかわらず、薬物が欲しくてたまらないという状態に陥りさらに薬物の乱用を繰り返す状態で、身体依存とは、薬物の渇望に加えて離脱症状を伴った状態のことを指します。

依存症は三大欲求と同じ状態になると言われ、お腹が空いたらご飯を食べるように薬が切れたら使用するになってしまいます。

普通の欲求と変わらなくなってしまうので、止めるのが難しいのです。そして脳にダメージが残ると、幻覚があったり、反社会的行動に走ったり、人格障害、急性中毒死などの恐れがあります。しかし、強い痛みがある場合は、医療用麻薬に対する依存症は起きず、痛みだけが抑えられます。

痛みのメカニズムを簡単に説明しておくと、体に痛みを受けると脊髄を通って脳に伝達され痛みを感知します。痛みに関する情報が必要なくなると、下行性抑制系という脳内の機能が作動し、痛みの刺激を脳に再び伝えないように鎮痛作用を発揮します。

本来はこのように、いわゆる脳内麻薬とも呼ばれる内因性オピオイドが働いて、痛みを抑える方向に働いていきます。ところが、慢性疼痛の人の場合、この部分が弱っていて痛みを抑えられないという状態にありますので、医療用麻薬で足りなくなった内因性オピオイドで補ってあげています。

一方、がん患者さんでは、がんが炎症を起こしたり神経を圧迫するなどにより絶えず痛みが引き起こされている状態ですので、麻薬性鎮痛薬は痛みの信号自体をシャットダウンする目的で使用されます。

では、なぜ麻薬中毒は起こるのか? 強い痛みにオピオイドを使用しても依存症にはなりません。ところが、痛みのない人にオピオイドを使うと、気分を高揚させる神経伝達物質であるドーパミンが放出され、快楽状態になります。

これが長く続くと中毒状態になってしまうのです。実際に痛みがある場合にはオピオイドを投与してもドーパミンが放出されることはないので、中毒になる心配はなく、痛みだけを抑えることができます。

“麻薬”という言葉で拒否反応を示す方もいるかもしれませんが、オピオイドは正しく使えば慢性疼痛を抑えるに非常に効果的な薬です。くれぐれも医療用麻薬の使用には注意し、痛みのない人に使用したり、譲渡したりしないようにしましょう。


長谷昌知(はせ・まさかず)
1970年8月13日、山口県出身。九州大学にて薬剤師免許を取得し、大腸菌を題材とした分子生物学的研究により博士号を取得。現在まで6社の国内外のバイオベンチャーや大手製薬企業にて種々の疾患に対する医薬品開発・育薬などに従事。2018年3月よりGセラノティックス社の代表取締役社長として新たな抗がん剤の開発に注力している。
Gセラノスティックス株式会社