日々ハードなトレーニングに勤しむ方からサラリーマンや主婦の方まで、すべての人にとって共通して必要なのは休息・リカバリーでしょう。あなたはしっかりと体を休ませることができていますか? 今回、プロアスリートなどに「リカバリー理論」を指導するほか、休養や健康関連を展開する企業のコンサルティングを手掛ける、“疲労回復の専門家”福田英宏先生にお話を聞きました。
※本記事は、2020年に『VITUP!』で公開した記事を再編集して紹介するものとなります。
眠る前はしっかり起き続けることも大切
――良質な睡眠をとる上で、気をつけることがあれば教えてください。
福田:1つは、寝る1時間前は部屋の明かりを少し落としてもらうことです。今は多くの家庭の照明は明るさの段階を調節できるようになっていることも多いと思うので、少し光を落として過ごしてください。できれば、暖色系の間接照明に変えることをおすすめしています。
――これもやはり、自律神経の副交感神経を優位にする効果があるんですね。
福田:明るすぎると交感神経の活動が高まって優位に働いてしまうからですね。スムーズな入眠のためにもこれは本当に大事です。以前に相談を受けた方の中で、それまでずっと夜は睡眠薬を飲んでいたけど、部屋の明かりを落としただけで睡眠薬を飲まなくなったという方もいらっしゃいました。もし明るさの調整が難しいなら、部屋の中ではありますがサングラスをかけるだけでも違ってくると思います。
――子どもがいる家庭ではなかなか大変かなという気がします。
福田:そうですね。よくある話で、最近の子どもはタブレット端末やスマートフォンを渡しておけば静かにしているじゃないですか。だからお母さんが食後の片づけなど家事をして、いざ自分の用が終わって寝ようとすると、子どもは全然眠くなくてギラギラな状態であるという話はよく聞きます。というのは、子どもは大人の3倍くらい光を感じると言われているんです。だから子どもが寝たとしても交感神経が優位になっていて、疲労回復がしづらくなっているということはよくあります。
――子どもはもちろん大人も、いい眠りのためには、寝る前はパソコンやスマートフォンの使用はなるべく控えたほうがいいわけですね。
福田:その通りです。パソコンやスマートフォンの光はだいたい300~500ルクス以上ありますので、メラトニンの分泌を妨げ、眠気を阻害することになりますから。あと光の量に加えて、室温・湿度も気にしてほしいですね。夏であれば、26~28度、冬であれば16~19度くらいにするのが、快適かなと思います。意外に大切なのが、湿度です。蒸し暑いと寝づらいので、できれば60%くらいに保つのがいいかと思います。
――他にも、質のいい睡眠のために気をつけることはありますか?
福田:寝る前の準備だけではなく、夜にしっかり寝るためには、日中はしっかり活動し、眠る前にしっかりと起き続けることが大切になってきます。
――昼寝などをしすぎると、夜に眠れなくなるということですか?
福田:昼寝自体は自然にくる眠気なので悪いものではありません。ただし、昼寝は15分~20分程度、できれば15時くらいまでに済ませるのがいいと思います。サラリーマンの方ならお昼休みなどの仮眠はいいことです。なぜ15分~20分程度がいいかと言うと、30分以上寝てしまうとノンレム睡眠状態、つまり深い睡眠に入っていってしまうからです。
――そこまで眠ると、夜の睡眠に影響がでてしまう。
福田:そうです。あと、よくサラリーマンや部活をやっている学生の方に多いのですが、帰りの電車でぐっすり寝てしまうことも避けたいですね。帰りの電車で30分以上爆睡してしまうと、帰ってきてから眠れなくなってしまいます。睡眠というのは、「睡眠圧」というものがあって、だんだんと眠気が蓄積されていくことで夜にスムーズに眠れる仕組みになっています。帰りの電車で寝てしまうと、その蓄積されたものをいったん減らしてしまい、本当に寝るべき時間にいい睡眠になっていないということはあると思います。そういう意味で、夜に眠るためには、それまでしっかりと起き続けるということも大切になってきます。
――少し話は変わりますが、よく週末は平日よりたくさん眠る「寝だめ」をする人がいますが、これは疲労回復の観点からするといかがでしょうか?
福田:結論から言うとよくないですね。普段との起床時刻の差が大きくなれば、そのぶん体内リズムのズレも大きくなってきます。サラリーマンの方で、金曜の夜は遅くまでお酒を飲んで終電で帰ってきて、普段は7時くらいに目覚めるところを土曜日はお昼くらいまで寝ているという方もいますよね? それだけリズムを崩してしまうと、戻すのに3日間くらい必要になり、月曜日からエンジンをかけて頑張るのは難しくなります。なので社会人の方が体調を崩しやすいのは案外土日が多いんですよ。なので、土日もなるべく普段と同じ時間に起きる、多く寝たとしても差は2時間以内にしましょう。もしどうしても疲れきっているようなら、昼寝をするのがいいと思います。
■質の良い睡眠のためにすべきこと
①朝食をしっかり摂る
②午前中に屋外で日光を浴びる
③軽いリズム運動をする
④その後、仕事や勉強をする
⑤午後に15分ほどの昼寝
⑥仕事や勉強
⑦夕方,軽いリズム運動
⑧早めの夕食
⑨ 22時前に入浴し、カフェインの摂取は避ける
⑩ 19時以降はなるべく部屋の照明を抑え、暖色系の光の下で過ごす
福田英宏(ふくだ・ひでひろ)
株式会社RecoveryAdviser(リカバリーアドバイザー) 代表取締役。プロアスリートをはじめとするスポーツ選手に「リカバリー理論」を指導するほか、休養や健康関連を展開する企業のコンサルティングを手掛ける「疲労回復の専門家」として活動中。これまで指導したスポーツ選手は、プロ野球球団やプロサッカーチームをはじめ、ラグビーやバスケット、バレー、卓球、テニス、ゴルフ、トライアスロンなど多岐にわたる。
●早稲田大学大学院スポーツ科学研究科(修士):研究テーマ『疲労回復ウェアに関する研究』
●睡眠改善インストラクター
●温泉入浴指導員
●Wasedaウエルネスネットワーク講師
●日本スポーツ産業学会 正会員