VITUP!編集長・佐久間が全国のパーソナルトレーナーさんを巡っていく「パーソナルトレーナー百人斬られ(仮)」。今回登場するのは元アクション俳優で、現在は映画監督を務めつつ、トレーナー、ジム経営をしている勇武トレーナーです。前編では異色の経歴を探っていきます。
元アクション俳優、映画監督、サムライ、正体不明の覆面トレーナー……勇武トレーナーのプロフィールを見ると、いくつもの「?」マークが頭に浮かびます。百聞は一見に如かずということで、本人にその歩みを聞いてみました。
勇武さんは、子どもの頃から運動神経が良く、スポーツ万能。学生時代は水泳選手として活躍していました。競技者として上を目指していた高校時代に、予期せぬことが起こります。ラグビー部の友人たちとウエイトトレーニングに熱中していると、ベンチプレスが130~140㎏上がるほどパワーアップし、水泳の大会に出場すると周囲からは「すごい体のヤツがいる」と、その肉体が注目されるようになりました。ところが水泳には不要な筋肉をつけすぎてしまった結果、タイムが悪化してしまったのです。
「休み時間に遊びに行くみたいな感じで毎日トレーニングをしていました。ラグビー部の友人と競い合っていたらどんどん筋肉がついていって、当時は今より15㎏くらい重くて体型も水泳選手というよりラグビー選手に近くなって、水泳のタイムが遅くなってしまったんです」
こうして水泳選手として上を目指していくのは難しくなったものの、運動は大好きであり、将来的にもスポーツと関わっていきたい気持ちがあった勇武さんは、体育教師を目指して日本体育大学に進学します。時を同じくして、友人の誘いを受けて倉田アクションクラブに入会。これが運命の分かれ道となります。
「誘われたときにジェット・リー主演の『キス・オブ・ザ・ドラゴン』という映画を見て、それがとてもカッコ良かったんです。最初は自分が映画に出たいわけではなく、スタントマンをやってみたい思って、倉田アクションクラブに入りました。学校もすごく楽しかったのですが、アクションクラブもすごく楽しくて、一生懸命練習しました」
アクションの魅力にハマっていくなか、日本体育大学という環境が勇武さんの成長を後押しします。体操の授業の担当教師が、1984年ロサンゼルスオリンピックで2つの金メダルを獲得した具志堅幸司さんであり、アクションの練習で課題となっていたことを相談すると、アドバイスをもらえる幸運もあって、メキメキと腕を上げていきました。
「大学2年くらいのときに千葉真一さんと倉田(保昭)先生が共演する映画に良い役で出演させてもらうことになりました。元々はスタントマンのほうを考えていたのですが、アクションとは関係のない恋愛ものなど、俳優としての仕事が増えて、演技クラスにも通うようになって、目指す道が変わっていきました」
体育教師の教員免許は取得したものの、勇武さんの中で体育教師になるという気持ちは薄れていきました。教育実習に行った際、教える側よりも自分がプレイヤー側の意識になっていることに気づき、大学卒業後はアクション俳優として活動していくことになります。
アクションシーンは撮影に時間を要するため、睡眠時間2時間で3日間動き続けるということもあったという厳しさでしたが、勇武さんは「天職」と思っていて、数多くのテレビ・ドラマ、映画、舞台に出演してきました。
順調にアクション俳優としての道を進んできたなかで迎えたある日、主演映画のリハーサル中にアクシデントが起こります。3人の相手を連続して蹴る“飛び三段蹴り”のシーンで、着地の際に前十字靭帯断裂の大ケガを負ってしまいます。高いジャンプで飛んでいる間に3人を蹴るという、勇武さんの身体能力の高さがあってこそできる技であり、それがアクシデントにつながってしまったのです。
「スポーツ復帰は早くて半年と言われ、撮影は半年伸ばしてもらいました。リハビリを頑張ってなんとか復帰して撮影をやり遂げることはできました。ただ、アクションの蹴りは実際に当てない分、ヒザの負担が大きくて、1日撮影が終わったら、曲がらなくなってしまうくらいでした。ケアもすごく大変で、続けていくのは厳しいかな思いました」
「天職」であるアクション俳優ができない……普通なら落ち込んでやる気を失ってもおかしくありません。しかし、勇武さんは「最初は病みましたけど、俳優はやり切った感もありましたし、比較的早く気持ちを切り替えられました」と、すぐに前を向きます。そしてアクションを生かしたトレーニングを提供するジム、ACTION STYLEを2018年に設立。トレーナーとしての道を歩み始めました。
「僕の武器はアクションです。そしてジムをやろうと考えたときに、アクションを使ったトレーニングをしている人が他にいなかったので、“自分が最初にやろう”と思ってアクションフィットネスというものを考案しました。それと同時に将来的にはアクション俳優時代から縁があった海外への進出も考えていたので、日本人が海外で勝負するために、サムライ、忍者といった要素を取り入れることにしました」
アクション俳優引退後は、エンタメ業界からのオファーを断わり、ジム経営に専念。その甲斐あって、現在では口コミを中心に多くの会員さんの獲得に成功。覆面トレーナー、サムライ……という実態がわからないトレーナー像は「ぶっちゃけ、マイナスです(笑)」というものの、それも個性として一つの武器となっているようです。そんな勇武さんがトレーナーとして大事にしているのは、「日常にトレーニングを入れてもらうこと」。
「たとえば週に1回、ジムでトレーニングをしても、残りの6日は何もしなければ効果が下がってしまいます。そこで僕は宿題を出して動画を送ってもらっています。週1回のレッスンと、週2回宿題をやると、成果は全然違います。最初は宿題という形でも運動を習慣づけることが大事と思いますし、できなかったことができるようになったら絶対に嬉しいものです。成果を出すためには最後は自分が頑張らなければいけません。僕たちが道筋を一緒につくるから、そこから先は自分の頑張りが大事ですよということを伝えています」
2018年からスタートさせたジムが軌道に乗ってきたことで、エンタメ業界にも復帰し、自身が監督を務める映画も公開されました。今後は幅広い海外展開も視野に入れており、まずはベトナムでジムをオープン予定だと言います。
「ベトナムはアクションで訪れた国で一番発展していない国で、今入っていけば先駆者になれること。そしてもう一つは社会主義で許可を取るのが難しいなか、政府の方とつながりがあって許可を取れること。その2点がベトナムを選んだ理由です。ベトナムはこれから健康志向も強くなっていくので、ジムをつくるのにはちょうどいいと思います。これをきっかけに、フィットネス業界の人たちのベトナム進出、俳優、女優のベトナム進出の道をつくれたら楽しいなと思っています」
現在の勇武さんは、アクション俳優ならぬ、次々とアクションを起こしてチャレンジを続ける“アクショントレーナー”。未知なる海外進出をはじめ、今後も勇武さんが起こすアクションには注目です。
というわけで、今回はここまで。次回は実際にアクションフィットネスの様子をお届けします。
【トレーナーPROFILE】
勇武(いさむ)
完全プライベートジムACTION STYLE代表。元アクション俳優、映画監督、サムライ。日本体育大学体育学科卒業。教員免許を取得するもその道へは進まず、アクション俳優の道へ。テレビ・ドラマ・映画・舞台などのアクションシーンの現場を12年経験。前十字靭帯断裂という大ケガを機にプレイヤーを退き、指導免許×アクションの2つを掛け合わせたアクションフィットネスを考案し、2018年にACTION STYLEを設立した。
【店舗情報】
完全プライベートジムACTION STYLE
西新宿スタジオ(都営大江戸線「西新宿5丁目」駅徒歩30秒)
練馬スタジオ(都営大江戸線・西武池袋線「練馬」駅徒歩10分)
〔料金〕
★体験レッスン=3,000円/1回(60分の体験レッスン&カウンセリング)
★ビジター利用(1回ごと)=12,000円/1回(90分のパーソナルレッスン)
★オンラインレッスン=5,000円(60分のビデオ通話レッスン)
★回数券(4回)=46,800円(4回)※1,200円お得。8回、12回、16回もあり
★オンライン回数券(4回)=18,000円(4回)
※その他、キッズクラスなど詳細はHPをご確認ください
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。