アスリートから一般のトレーニーまで、それぞれのトレーニングとの向き合い方を紹介する連載「My Training Life」。今回登場するのは、今年のSBC TOKYOのデニム部門においてオーバーオール優勝をはたした阿部一樹さん。ある苦い経験からトレーナーを志し、いまではVALXのトレーナーとして多くのコンテスト出場者をサポートする彼のトレーニングライフに迫る。
選手としてコンテストに出場するだけでなく、VALXのトレーナーとしても活躍する阿部一樹さん。トレーナー歴は10年と、長いキャリアの中で培われた知識と経験で、多くの人のボディメイクやボディコンテスト出場への挑戦をサポートし続けている。そんな彼がトレーナーという職を志したのは、高校時代のある苦い思いがきっかけだったという。
「高校時代は硬式野球部で投手をやっていたのですが、長年のハードワークが祟って高校1年時に肘と肩をケガしてしまいました。十分な球が投げられなくなり、ポジションをセカンドに移したのですが、俊敏な動きが求められる守備位置のため、そこでも思うようなプレーができなかったまま、1年生の冬頃に自分の野球人生を終えました。その後、野球の道以外で改めて進路について考えたところ『しっかりとした知識でケガを予防できるトレーナーになって、僕みたいな人を少しでも減らすことができればいいな』と思いトレーナーを志しました」
高校卒業後はトレーナーに関する知識を身につけるため専門学校に入学。授業でインプットした内容を、スポーツジムでのアルバイトでアウトプットをするという充実した環境のなかで、トレーナーを目指す日々を過ごしていたという。
「専門学校の先生から『将来トレーナーになりたいのだったら、ジムでバイトした方が良い』と言われて、ジムでアルバイトを始めました。授業で覚えたことをそのままアウトプットできるこれ以上ない環境だったので、トレーナーとしての技術や知識が深まりました。おかげで学校の単位も1年生のうちに卒業要件に必要な分はほとんど取れていたような気がします(笑)。アルバイト時代に印象的だったのはスタジオレッスン。専門学校2年の時にダンスインストラクターとボクササイズを指導することになって、そこからマンツーマンでお客さんに教えるだけじゃなくて、一クラス20人から、多い時で100人とかをみるようになりました。たくさんのお客さんを束ねながら、全員が付いていけるようにわかりやすい伝え方というものをそこで学べたかなと思います」
平日は朝の9時半から6時、7時くらいまで勉強漬け。そして、土日はジムでのアルバイト漬けのハードな日々にも関わらず、将来の夢に向かって、着実に知識技術を深める充実した日々を過ごせていたという阿部さんは、専門学校を卒業後に新たな出会いがあったと振り返る。
「卒業後もしばらくはダンスインストラクターとボクササイズのレッスンは続けていましたが、現在Super Body ContestのスポンサーでもあるB-STの社長さんとご縁があって就職させていただきました。パーソナルトレーナーがあまり一般的ではない頃から売り上げが高いトップトレーナーがたくさん所属されていたので、この方達の背中を追っていきたいなという思いがあって即決でした」
B-STに所属し、トレーナーとしてのキャリアがスタートした阿部さん。B-ST時代での経験が現在も大きく活かされているという。
「B-ST時代に鍛えられたのは営業です。今のマンツーマンジムというのは、集客を広報が担当してくれていたりするのですが、B-STの場合は、自ら鍛えているお客さんの所に出向いて、自分をアピールして集客するスタイルなんです。お客様とのトークで、自分に興味をもってもらえるようにするプレゼンテーション力だったり、初対面の人に堂々と話しかけるメンタルは鍛えられました。このスキルは今でも活かされていて、おかげでお客さんのリピート率もいいような気がします」
約4年半務めたB-STを退職後は、VALXに所属。より多くのトレーニーのサポートをしている阿部さんは、指導するにあたって2つのことを心がけている。
「お客さんによりますが、SBCをはじめとするコンテストに出場するように勧めています。というのもただアバウトな目標で体を鍛えるよりも、バシッと目標を決めて、その期限までに体をつくって出場するというのは効果的だと思っているので。また、お客さんのためにも、その人の目標に導いていくためにも、アドバイスは容赦なく言うようにしています。なぜか、きつく言っても、ありがたいことについてきてくれるお客さんがいますね」
自身も2013年のBest Body Japanでコンテストデビューをはたし、Super Body Contrest初年度となった2019年からは現在に至るまで継続的にコンテスト出場を続ける。昨年のSBCのFINALでは5位入賞、今年のSBC TOKYOのデニム部門においてはオーバーオール優勝をはたすなど選手としても活躍を見せている。今年はSBC FINALに照準を合わせて、準備を進めている。
「自分もお客様と同じように明確な目標を立てて、トレーニングするようにしています。昨年のFINALで、あのメンバーの中で入賞できただけでもとてもうれしかったのですが、今年こそは優勝をしたいです。目標は日本一、それしかないです」
トレーナーとしても「いずれは自分のジムを出したい」と意気込む阿部さん。トレーナーとしても、コンテスト出場選手としても、フィットネス業界をさらに盛り上げる重要人物であり続けるに違いないだろう。
取材・文/中野皓太
写真/森本雄大