100人以上のチャンピオンを輩出。GOLDKIDS代表・成國晶子が語る「子どもたちのメンタル強化」(前編)




2003年の創立から毎年、全国少年少女選手権・選抜選手権、全国中学生選手権・選抜選手権などで数多くの選手が優勝。日本チャンピオンの数は延べ100人を優に超えるレスリングクラブ「MTX GOLDKIDS」。OBたちの活躍も目覚しく、カデット(U17)、ジュニア(U20)、シニア(20歳以上)とすべてのカテゴリーの世界選手権で男子・女子ともにチャンピオンを輩出。2021年に行われた東京オリンピックでは乙黒拓斗(男子スリースタイル65キロ級)が金メダルを獲得。今年9月セルビア・ベオグラードで開催された世界選手権でも成國大志(男子フリースタイル70キロ級)で優勝を遂げている。

そんな強豪クラブを立ち上げ、いまも指導を続ける成國晶子が「子どもたちのメンタル強化」をテーマに語った。

成國のメンタルトレーニングの原点は現役時代に、日本のイメージトレーニング、メンタルトレーニング研究・指導のパイオニアである西田文郎に学んだことだ。

「オーディオブック(CD)を購入し、毎晩寝る前1時間聞きましたし、毎月2度ほど静岡にも通って指導を受けたり、脳波を測定してもらって。当時、そんなことをするレスリング選手は全くいませんでしたが、月20万円いかない給料のうち半分ぐらい投資してやっていましたね。

 一番よかったのは大目標、中目標、小目標を立てること。私の場合、大目標はもちろん世界選手権優勝ですし、中目標は世界選手権の出場権がかかった全日本選手権での優勝。小目標は、そのために一つひとつ技の完成度を上げること。目標を明確にして、それぞれの目標を達成するために何が必要か、何をしなければならないか日々考えて練習し、小目標から順にクリアしていく。いきなり世界選手権優勝という目標を立てても、そのために何から始めたらいいかわからないけど、目標を大・中・小に分けて立てれば突き進める。

 それと、徹底的なイメージトレーニングをしました。あれは1991年東京で行なわれた世界選手権のときのこと。前年、初優勝を飾り、2連覇に挑んでいましたが、決勝戦前日、翌日の自分の行動をできるだけ細かく、リアルにイメージしました。朝、起きたらどっちの足からベッドを降りるか、歯を磨くときはどちらの手でブラシを持ち、どれくらい歯磨き粉をつけるか。靴下や靴はどっちの足から履くか。最後の調整はどんなトレーニングを何回するか。マットに上がったら、どこを見るか。自分になんと声をかけるか。試合が終った瞬間、どうガッツポーズをとるか。表彰台でどんな顔をするか。そこまでイメージしましたね」

結果は見事、2連覇達成。イメージトレーニングは大成功だった。

MTX GOLDKIDSでは入部時に、自分がどうなりたいのか目標を立てさせ、それを声に出して言わせ、紙に書かせる。「強くなりたい」、「レスリングがうまくなりたい」、「大会に出て優勝したい」、「チャンピオンになりたい」・・・・・・子どもたちの目標はさまざま。練習を積んで、もっと具体的に、高い目標を掲げるようになれば、それもまた口にさせて、書かかせる。そして、「キミの目標は?」と何度も問いただし、より明確に意識させる。

「思いは秘めてとか、口に出さないほうがいいという考えもあるでしょうが、私はそうは思わない。有言実行がいい」

練習前も後も、MTX GOLDKIDSに全員そろってのあいさつはない。入ってきてすぐに「こんにちは」と言う子もいれば、着替えてシューズを履き替え用意ができたところで「お願いします」と言う子もいる。練習後の「ありがとうございました」、「さようなら」もバラバラだ。

「一斉にあいさつとなると、言わされているだけの子もいる。ほかのみんなに合わせて。それだったら、どのタイミングでもいいから自分から『レスリングを習いに来ました』宣言をするほうがいい。自分から『お願いします』となれば、やらされている練習にはならないじゃないですか」

目標を立て、それに向かって自ら練習をする。だから、メンタルも強くなり、技術力を上がる。だから、勝てる。

MTX GOLDKIDSでは、全員が同じ技の練習はしないことも大きな特徴だ。一人ひとり、コーチがその子の体格、能力、センスに合わせた技を教え、子どもはそれが自分にあっていると思えば磨いていく。さらに、その技を見て自分も身につけたいと思えば、自分から「教えてください」と来ればいいし、逆に「その技を防ぐ方法を教えてください」という子もいる。やらされている練習ではなく、何が自分にあっているのかを考えながら得意技を身につける。

(後編に続く)

取材・文/宮﨑俊哉
写真/森本雄大

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