VITUP!編集長・佐久間が全国のパーソナルトレーナーさんを巡っていく「パーソナルトレーナー百人斬られ(仮)」。今回は野上鉄夫トレーナーの後編、トレーニング編です。私のバックボーンであるレスリングに基づいて、これまでに経験したことがないトレーニングを教えてもらいました。
前編でも紹介したように、野上さんの指導ポリシーは相手に寄り添うトレーニング。その人の成り立ちを聞いて、それに合わせて指導を行なうというものです。今回は私が長年レスリングをやってきたことにちなみ、その動きに生かせそうなトレーニングをしてもらいました。現役引退から25年。レスリングの動きから遠ざかっているものの、非常に興味深いトレーニングです。
まずはウォーミングアップとしてボックスジャンプ。軽く心拍数を上げることを目的としたプライオメトリクス・トレーニングですが、体に軽やかさがない!
ここではニー・イン・トゥ・アウトにならないようにと指摘を受けます。この形になるとヒザの靭帯や半月板を痛める可能性があるので注意とのこと。ボックスジャンプに限らず、日常生活でも階段の上り下りなどで注意が必要です。
アップを終えてさっそくトレーニングを開始します。まずはBOSU(バランスボールの半球)を使用してのランジです。
ボールのてっぺんと底の真ん中に置いて、そのまま後ろのヒザをゆっくりとつけて、戻します。ヒザを下ろすときに一気に落ちないようにしつつ、つま先とヒザが真っすぐになるように意識して20回行ないます。
2種目目からは応用です。今度は片手に3㎏のダンベルを持って、体幹と連動させながらのランジです。前に出した足と反対側の手にダンベルを持って行ない、戻したときに頭の上でダンベルを持ちかえて反対足。片側にウエイトを持つことでバランスを取りづらくなりますが、フラつかないようにします。
続いてはさらにレベルアップしての「フル・ハーフ」。少し下げて、少し上げて、しっかり下げて、しっかり上げるという動きになります。
これは実際の競技での動きを想定したもの。多くのウエイトトレーニングはフルレンジで行なうことが多いですが、いろいろなスポーツの場面ではフルレンジよりも、パーシャルレンジで動くことのほうが多くなります。レスリングもフルスクワットのような姿勢になることはほとんどなく、構えの攻防ではパーシャルレンジで動くことになります。それを想定したトレーニングというわけです。不安定な足場のなか、途中で止めるのは難しく、相手がある実戦に近いものと感じました。
足の種目のラストはBOSUに両足を乗せたところからのバックランジです。立っているだけでも不安定なので、なかなか大変です。さらにレベルアップすると、ダンベルを持ったり、フル・ハーフにしたりというバリエーションもできます。
ここからは上半身種目です。まずはBOSUを裏返してのプッシュアップ。ただのプッシュアップではなく、「スリーワン」と「ボトムストップ」を組み合わせて行ないます。
「スリーワン」とは、1・2・3とカウントして、その都度止めながら下ろして(あるいは上げる)いくこと。そしてボトムストップは下ろしたところで3秒ストップすること。この2つを組み合わせてプッシュアップをします。これも実際のスポーツを想定したものとなっています。ずっと同じリズムでやるのではなく、下ろし方や角度を変えると、実戦的な動きに近づいていきます。
難易度はどんどん上がっていきます。続いてはバランスボールを使ってのプッシュアップ。野上さんが見本として軽々とやるので、簡単そうに見えるものの「最初に言っておくと難しいですよ」と釘を刺されます。
均等に体重がかからないとボールが動いてしまうため、バランスを取るのが難しく、かなり体幹の力を必要とします。野上さんの言葉通り、見ているよりもはるかに難しいです。
続いての種目に入るにあたって野上さんがBOSUを用意。もはや嫌な予感しかしません。最後はBOSUに足を乗せて、バランスボールに手を乗せてのプッシュアップです。どちらも不安定なので、スタート姿勢をつくるだけでも大変で、集中して体幹に力を入れておこなわないと顔から地面に落ちます。
そして最後はストレッチポールを使ってのシットアップ。頭がポールに収まる位置に寝て、足は浮かないようにして上体を起こします。ただの腹筋ではありますが、上体を上げるときに少しズレるだけで背中のポールがズレて、接地面がなくなるため、起き上がれなくなってしまいます。バランスを意識しながら行なうと、思っていた以上に負荷を感じます。
これにてトレーニングは終了。ランジにしてもプッシュアップにしても、バリエーションが非常に豊富であり、ちょっとした工夫で、より競技向けのトレーニングになることを実感できました。
「今回紹介したトレーニングは足場が不安定だったり、対人競技でバランスが不安定なところで力を発揮できるようにするトレーニングです。通常のベンチプレスやスクワットなどもしっかりやって、ベースの筋肉ができると、こうしたトレーニングが生きてきます。どちらのトレーニングが良いということではなく、両方やって初めて引き出されるパフォーマンスもあります」(野上さん)
というわけで、今回はここまで。バラエティーに富んだメニューを組んでもらい、きつさもあり楽しさもあるトレーニングをすることができました。野上さん、ありがとうございました。
【トレーナーPROFILE】
野上鉄夫(のがみ・てつお)
東京YMCA社会体育専門学校を経て、草加のスポーツクラブ「スポーツPAL45」に勤務。フィットネスインストラクターとして、約30年間で1万人以上の方に目的別運動プログラムを作成してきた。2022年に同社を離れ、現在は某有名ジムでパーソナルトレーナーを務める。著書「史上最高のストレッチ」(新星出版社)
★資格=日本トレーニング指導者協会 認定指導員・健康運動指導士・NSCA-CPTパーソナルトレーナー
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1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。