「感無量です――」
つい数十分前、ステージ上で噛みしめるように大きなガッツポーズを見せ、大粒の涙を流した男は、ホッと一安心した声でそう答えた。
12/10(土)に埼玉・サンシティ越谷にて開催されたSuper Body Contest(SBC)の決勝大会となる『SBC 2022 FINAL』。3月の開幕戦以降、全国各地で13大会を繰り広げてきた2022年のSBCもついに最終決戦である。男女計7カテゴリ―の競技が行なわれたこの日のコンテストにおいて、男子の王道「SBC部門」で、尾花優が見事にChampion of the showの座を射止めた。
「言いたいことがでないというか……。(優勝の証である)このクリスタルを持っているだけで、何かエネルギーが吸い取られてしまうような気がするくらい重い賞だと思います。いろんな苦難がある中で獲得できた賞なので、一生大切にしたいです」
昨年のFINAL大会では、今年は審査員側にまわった川辺大輝にわずかに届かず準優勝。当然のごとく、尾花の目指すところは優勝しかなかった。そんな思いで今シーズンをスタートしたものの、4月の埼玉大会ではライバルの田中佑樹に敗れて2位。さらに8月には交通事故に遭いリハビリ生活に。コンテスト出場も危ぶまれる状況になった。
「正直、ちょっと心が折れました。いや……ちょっとじゃないですね、本当に今年はもうやめようと思いました。でも、リハビリしている自分の姿が情けなく感じてきてしまって。事故から4週間後くらいだったかな、目標も失ってしまった自分の姿を顧みた日があったんです。考えているうちに、リハビリ生活を言い訳にして今年を棒に振るのが、自分の中で許せないと思いました」
絶対に諦めたくない目標がある。そして、それをサポートしてくれる仲間やライバルもいた。
「そうしているときに、周りで支えてくれている方々からの『頑張って』という言葉であったり、『目標に向かって頑張っている姿が好き』と言ってくれる言葉が僕の支えになりました。『もう一回奮起したい』と。そういう過程があって手に入れたこのクリスタルなので、本当に嬉しいの一言ですし、周りの人に『ありがとう』という思いです」
苦難を乗り越え獲得した大きな勲章。しかも、DUKE(男子30歳~39歳)クラスで3位になった田中、2位になった高橋秋裕との頂上決戦はSBC史上もっともハイレベルなバトルであったのは間違いない。彼らとは5年以上も共に戦ってきたライバルであり、決勝審査でも最後は3人がステージに残り、3人が交互にセンターに入って比較審査が行なわれるほどであった。
それゆえに、これからは皆が打倒・尾花優の思いで駆け上がってくるだろうが、彼自身もここで終わりではなく、次を見据えてまた一歩を踏み出していく。
「明日からは、今日の優勝はもう過去になります。それは一つの栄光として自分に自信を付けさせてもらうものにしながら、また明日からは初心に戻って一からスタートし直します。ステージに立つことで、身体と向き合うことの大切さや、夢を追う事の魅力……そんなことが少しでも伝わったら良いなと心から思っています」
取材・文・写真/木村雄大