アスリートから一般のトレーニーまで、それぞれのトレーニングとの向き合い方を紹介する連載「My Training Life」。今回登場するのは、決められた区間をクリアするまでのタイムを競うリアルタイムアタック(RTA)で、Nintendo Switchのフィットネスゲーム「リングフィットアドベンチャー」の世界記録を7つ保持しているえぬわたさん。フィットネスの新境地とも言える場所へ、彼はいかにして辿り着いたのだろうか。
ゲーマー×トレーニーが見つけた新境地
世界中で外出自粛を余儀なくされた2020年。ジムも閉鎖され、運動不足やトレーニング不足を多くの人が嘆く中で生まれた爆発的な需要により、店舗から一気に在庫が消えていったゲーム、それが「リングフィットアドベンチャー」だ。
その名の通りリング状の専用コントローラーとレッグバンドを使って体を動かすと、ゲーム内のキャラクターも同調して躍動。RPGの要素を取り入れたモードなどが用意されており、ジョギング(実際は足踏みやスクワット)で移動しながら、エクササイズを行なうことで相手にダメージを与えることができ、筋トレ系はもちろん、もも上げやツイストなどのリズム系、椅子のポーズや舟のポーズなどのヨガ系といった、60種類以上のフィットネスメニューをゲームを進める中で実践できるようになっている。
そんなリングフィットの中でも、ゲームのクリアタイムを競うRTAの世界記録を7つのカテゴリで保持している(2023年1月時点)のが「えぬわた」さんだ。もともとある程度のトレーニング経験を持っていた彼も例に漏れず、コロナ禍のジム閉鎖により家でできるトレーニングを探していた時に、リングフィットを目にした。
「リングフィットを始めてみて、きついと感じたメニューは結構あります。中でも、リングコンを頭上に持って押し込むバンザイプッシュは、肩に効かせられる種目なのですが、そういう同じ動きをしたことがなかったです。三角筋を鍛える種目として、ジムが再開されてからはそのトレーニングをすることもありましたね」
実際にゲームとフィットネスを同時に楽しんでいると、やがてRTAにも興味を持つようになった。他の走者の動画を見ると、普段から本格的に鍛えている中で取り組んでいる人は多くはなく、「これだったら自分のほうが速そうだ」と思った。
とはいえ、クリア率を問わずに走り切るのにかかった時間を競うカテゴリの一つ「Any%」の世界記録は、なんと19時間以上。経験を積んだトレーニーやアスリートであっても、未知数の世界であろう。
「ウルトラマラソンや富士山を何往復もするなど、世の中にはきついスポーツもたくさんありますが、自分は今までそういったものはやったことがなかったですし、それだけの時間運動し続けることが果たして可能なのか、到底想像もつきませんでした。それまで私が経験したのは、せいぜいフルマラソンで4時間走ったくらい。それですらめちゃくちゃつらかったのに……」
未知の世界に不安はありながらも挑戦した結果は、なんとそれまでの世界記録を1時間以上も更新する17時間48分での完走。ゲーマーでありトレーニーでもあるえぬわたさんにとって、大好きなゲームと運動がかけ合わさったリングフィットは、自分に合っているコンテンツだと確信。このゲームをやり切ろうと決意した。
その後、着々と記録を更新していったえぬわたさん。「Any%」の記録を15時間23分まで短縮、クリア率100%を達成するまでのタイムを競う「100%」でも28時間22分で世界記録を更新。YouTubeやニコニコ動画への解説動画を投稿していく中で独自の地位を築いていき、大規模なオフラインイベント「RTA in Japan」にも参戦した。
さらに、ゲームの世界のみならず、リアルなステージにも活躍の場を求め、FWJ(Fitness World Japan)主催のコンテストにもフィジーク選手として出場。過去に2回フィットネスの大会に出場したものの1回目は予選敗退。2回目も9位と入賞には手が届いていなかったが、再び挑戦を決めたのは、ある理由があったと語る。
「何かしらがんばった結果を残したいということと、『負けっぱなしは嫌だ』という思いがありました。その頃はリングフィットのRTAで有名になったタイミングだったこともあって、『RTAしかできない人』と思われたくなかったというのもあります」
オンラインでも、リアルでも、一つでも上へ登りたい。何より、「負けっぱなしは嫌だ」という思いが彼を突き動かしており、フルマラソンも目標の一つとして掲げている。
「7、8年前にも一度出場したことがあり、その時は4時間17分ほどで完走できました。ただ、4時間切りを目標にしていたので……そこは自分の人生の中で『負けっぱなし』になっているところです。他にもスパルタンレースやSASUKEなど、全身を使う競技も目標にしています」
そんなえぬわたさんだが、生活環境の変化もあり、今後はフィットネスとゲームを掛け合わせた活動は減っていくことになるという。お世話になったリングフィットのRTAをさらに発展させるため、リングフィットRTAの解説動画やTipsの投稿など、YouTubeでの活動は続けていくと決めており、2月5日(日)には「ラストリングフィットRTA」配信を行なう予定。負荷30(最高負荷)の「Any%」という、まさに王道とも言えるようなカテゴリで、自身のリングフィットRTA人生を締めくくる。
「『Any%』は私が初めて走った、思い出深いカテゴリです。自分の強みが一番発揮できるカテゴリで、一番走ってきた、詰めてきた、一番好きなカテゴリなので、この3年間の集大成として走らせていただきます。今の世界記録が、自分が持っている13時間30分12秒なので、それを更新する13時間30分切りを目指しています。。配信ではコメントにも極力答えるようにしようと思っているので、ぜひ遊びに来てください!」
これまで多くの研究を重ね、試走を繰り返し、記録を塗り替えてきたRTA走者が見せるラストラン。ゲーム×フィットネスのトップランナーの集大成を見逃すな。
取材・文・撮影/シュー・ハヤシ