近年はサウナ施設が全国に増えてきており、多くの有名人がサウナ好きを公言するなど、誰もが楽しめる身近なものとして各地に広まっています。健康や美容に良いもの……というイメージはあると思いますが、トレーニーやアスリートにとって効果的な付き合い方はあるのでしょうか。今回は、日本サウナ学会の代表理事・加藤容崇さんにインタビュー。「減量」という観点から話を聞きました。
サウナによって痩せ体質へ?
――サウナの基本的なところは先生の著書『医者が教えるサウナの教科書』に書かれていると思いますので、今回はVITUP!の読者であるトレーニーやアスリートへ向けたサウナの効果についてお聞きしたいと思います。彼らの多くが「減量」という課題と向き合っていると思いますが、そのためにサウナを利用するというのは、そもそもありなのでしょうか。
サウナ=ダイエットのようなイメージを持っている方も多いかと思いますし、そういった効果がまったくないわけではありません。サウナに入れば汗が流れるので、流出した水分の体重が落ちますが、その後に水分を補給すれば元に戻ります。基本的にサウナを使った減量というのは、おすすめできません。実際にイギリスのボクシング協会などでは、減量のためのサウナは禁止されています。極限の状態で闘う格闘家にとっては、それほどリスクが高い行為だと言えるでしょう。
――著書には「サウナに入ると痩せ体質になる」とも書いてありました。急激な減量のためではなく、日頃から利用することで痩せやすくなる体をつくるという点ではいかがでしょうか。
まず、サウナに入ると体の中のエネルギーを燃焼させる甲状腺ホルモンの機能が高まります。人間は体の中のエネルギーが枯渇したら死んでしまうので、本来はあまり燃やしたくないものなのですが、サウナのように体が緊急事態の環境に置かれると「ご飯なんか食べていられない」と体が認識するので、体のエネルギーを燃焼させるモードに入ります。これによって代謝が上がるため、痩せやすくなります。なので、アスリートか一般人かにかかわらず、日頃からのサウナの利用によって痩せやすい体をつくることは可能です。
――自然と体重が落ちやすい体になるとなれば、一般の方にとってはうれしい効果ですね。
ただし現実的には、残念ながらそこまで単純なことではありません。たとえばですが、サウナに入ると食欲も高まり感覚も鋭敏になるので、サウナ後の食事やビールはとてもおいしく感じると思います。結局はトータルの摂取カロリーが上がってしまって太ってしまう人が多い……という報告の論文もあります。代謝は高まっているのは確かなので、我慢強い方なら痩せる効果があると言い切れるかもしれませんね。
――サウナ好きのアスリートが最近は増えてきているようにも感じますが、彼らにとって、サウナの効果はその他にありますか。
目的次第だと思います。たとえば、試合後は興奮して眠れないというアスリートもいるでしょう。自律神経の切り替えができていないということだと思うのですが、そこでサウナに入ることで強制的にリラックスできるので、眠りやすくなります。サウナは強いストレスがかかっている時のほうがより「ととのう」ので、疲れてどうしようもない、嫌なことがあった時にサウナに行くと、リカバリーに良い影響があると思います。
加藤容崇(かとう・やすたか)
群馬県出身。北海道大学医学部医学科卒。
医師・医学博士(病理学専攻)。北海道大学医学部にて特任助教として勤務したのち渡米。ハーバード大学医学部附属病院に勤務。膵臓癌の創薬に関する研究を行なう。帰国後、慶應義塾大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニット、北斗病院腫瘍医学研究所に勤務し、癌ゲノム医療を行なっている。加速する医療費増加を目の当たりにし予防医療の重要性を認識。予防医療としてのサウナを研究するため日本サウナ学会を設立し、予防医療を推進するため株式会社100plusを設立。
著書に『医者が教えるサウナの教科書』(ダイヤモンド社)があり、ホンマでっかTV(フジテレビ)、文藝春秋、などメディア掲載多数。医療漫画『フラジャイル』(講談社)の医療監修も務める。
取材・文/シュー・ハヤシ