パワーリフティングを始めてから6年で世界大会に出場したウッシーこと牛山恭太さんですが、競技を始めたばかりの頃はケガで伸び悩むなど、最初から順風満帆というわけではありませんでした。今回はウッシーさんの肉体をつくり上げたトレーニングについて話を聞きました。
体のケアはやりすぎくらいがちょうどいい
――パワーリフターとしてここまで順調に成長してきたように思えますが、落ち込む時や挫折する時はありましたか。
挫折もありますし、落ち込むことも多々あります。僕は昔から腰椎分離症という腰のケガを持っていて、その影響もありスクワットの記録が1年半くらい伸びなかった時期もありました。本当に腰の痛みがどうしようもなく、「腰痛持ちでは無理なのか」と思った時期もありました。今でこそケアにはとても気をつかっていますが、競技を始めて3年間くらいはそこまで強いこだわりも持っていなかったこともあり、案の定たくさんケガをしました。そういった経験から、今ではコンディショニングケアをとても大事にしています。
――今までたくさんケガをしてきたからこそ、事前準備を大切にしているのですね。
コンディショニングは一番大事にしています。体の柔軟性を高めてどんな動きでもできるように、関節の可動域をしっかり自分のコントロール下で動かせるようにしています。それが結果的にケガ予防にもつながるので、とてもこだわっています。事前準備がしっかりできていないと、練習量も積めなくなってしまいますし、疲労もすぐにたまるようになってしまいます。それこそ事前準備はやりすぎくらいがちょうどいいと思っているので、たとえば練習が1時間しかできないのであれば僕はコンディショニングケアだけをして終わると思います。
――それだけで終わるのですか!?
むしろそれがないと練習が始まらない、始めてはいけないと思っています。たった数分でも、それをやらずにケガをしてしまったら絶対に後悔するので、トレーニングとケアのどちらかしかできないのであれば僕はケアを優先します。逆にそこまで徹底した上でケガをしたのであれば諦めもつきますから。
――コンディショニングの大切さはよくわかりました。それでは、競技の中でより重量を上げるコツはありますか。
これも先ほどのコンディショニングが大切です。ストレッチなどを行なって関節の可動域を確保しておかないと、せっかく身につけた技術も活かせません。ストレッチでしっかりと動ける状態にしておくことで、初めて技術が活きてきます。技術の面で一つ言うのであれば、なるべく筋肉に効かせないことです。しっかりと自分の骨格に乗せて、筋肉ではなく骨で重量を操るようなイメージ。そこに筋肉があればあるほどパワーが出るといった感じです。つまり、パワーリフティングではいかに全身を連動させて、なるべく筋肉に効かせずに重いものを効率良く挙げるかが重要です。そして、骨格に乗せるということは関節が動く状態をつくっていないといけないので、そのためにも事前準備はやはり重要になってきます。
――筋肉に効かせないのがパワーリフティングだとすると、筋肉に効かせて大きくするのがボディビルダーではないかと思います。ある意味真逆のことを二刀流としてやっていることになりますね。
僕はボディメイク用のトレーニングはしていません。トレーニングの内容もそこまで変わらないですし、意識的に効かせるという作業も行なっていないです。ただ、パワーリフティングで高重量を持ち上げる中で、結果的に筋肉にも負荷は乗るので筋肥大はしていきます。そのBIG3や高重量でつくられた強くてかっこいい体を体現したいという思いもあり、ボディコンテストに出場しているんです。それを見て「パワーリフターはかっこいい」と思っていただけたらうれしいですね。
――ボディコンテストに出場するのも、やはりパワーリフティングの魅力を知ってほしいという思いにつながってくるのですね。
2022年の『マッスルゲート札幌』に出場した時も、優勝という結果以上に周囲の反応がうれしかったです。「パワーリフターなのにボディビルにも出場してこの体をつくりあげられるなんてすごい」といった反響を見て、「自分は“パワービルダー”として発信を続けよう」という思いがより強固になりました。そして「こういうトレーニングの楽しみ方もあるよ」と多くの人に伝えると同時に、なるべく安全に楽しんでもらうために「パワーチューブ」では僕の経験を活かしてさまざまな情報を発信しています。
――自分はたくさんケガをしてきたからこそ、これから始める人にはなるべくケガをしないでほしいということですか。
BIG3やパワーリフティングを避ける理由としては、ケガをするからという人が多いと思います。全身運動にものすごい高重量を乗せるわけなので、他の種目と比べると当然ケガのリスクも高いです。それでも、その重量を上げられた時はとても楽しい。パワーリフティングの競技者になるかならないかは別として、重いものを持ち上げるという楽しさを知ってほしいんです。その楽しさを知ってもらうこともパワーリフティングの普及につながると思っているので、「良いパワーライフ」の参考にしてみてください。
取材・文/シュー・ハヤシ
写真提供/牛山恭太