筋肉とはまさに一心同体。『筋肉島』 につながる激動の半生【漫画家・成田成哲#3】




もしも筋肉だけで発展した島があったら――。そんな世界観を形にした漫画『筋肉島』が人気を博しています。本作の産みの親である成田成哲先生は、筋肉の描き方を勉強し尽くし、自らもトレーニーというまさに筋肉漫画家。今でこそプロとして活躍する成田先生ですが、ここに至るまでには紆余曲折があったといいます。ここでは筋肉島誕生の秘密を探りつつ、筋肉漫画家の半生に迫ります。

【フォト】成田先生が描く『筋肉島』のマッチョたち

©成田成哲/集英社

ここまでいろいろあったが、描き続けてよかった

――前回、ボディビル選手や人体解剖図を研究して筋肉を勉強したと伺いました。筋肉島の作画は努力の結晶だったのですね。

努力はもちろん、周囲の環境にも恵まれていたと思います。自分のチーフアシスタントに構図設定がとても上手い子がいて、その子にいろいろ課題を出してもらうんですよ。たとえば「マッチョがスライディングしているのを俯瞰で見た感じ」とか、意味がわかりませんよね(笑)。でもそれを必死になって描くんです。私は今30代ですが、20代の頃も漫画家仲間とよく構図研究会をしていました。そういった協力があって今があると思います。

 

――そういった歩みが結実して、『筋肉島』が生まれたのだとあらためて感じます。

そうですね。今までの漫画家人生が活かされた作品だと思います。筋肉島を連載している漫画誌アプリ「少年ジャンプ+」では、盲目の主人公による格闘アクション漫画『アビスレイジ』やボディビルダーのチートデー(減量中に自由に食べていい日を設けること)をテーマにした『マッチョグルメ』などを過去に描かせていただきました。いろいろな作風を試してきたので、それらを経て生まれたのが『筋肉島』になっています。

――どの作品にも共通するのが筋肉だと思います。筋肉の作画は自身の強みになっているのではないでしょうか。

はい。自分にとって筋肉は描くのが好きなものであり、得意なものでもあります。今では作品に筋肉を求められることも多いですし、漫画家である限り離れられない存在になっています。筋肉はまさに一心同体ですね。ここまでいろいろありましたが、描き続けてきてよかったです。

成田先生自身『筋肉島』にキャラクターとして登場している(©成田成哲/集英社)

――成田先生のここまでの人生も気になります。そもそも漫画家を目指したきっかけは?

幼少期から絵を描くことが好きで、親や友だちに褒められることがよくありました、それで自然と絵の方向に進んでいきましたね。絵を描く職業の中で漫画家を選んだのは、やはり漫画が大好きだったからだと思います。“好きこそものの上手なれ”ではないですけど、描き続けるうちに上達していきました。

――とくに好きな漫画作品はありましたか。

『SLAM DUNK』や『バキ』、『寄生獣』などが大好きでした。いろいろな作品を読んだり、当時はかなり映画も見ていたので、画力だけでなく構成力の土台も身に着いていったのかもしれません。

――漫画家としてデビューに至るまで、苦労や挫折はありましたか。

めちゃくちゃありましたよ。もう何十回あったかわからないくらいです。最初の挫折は漫画の大学に入った時で、まわりのレベルを見て「俺って絵上手くないんだ」と愕然としました。そこで一度心が折れましたね。

――漫画の道に踏み込んだ瞬間、見えてきた現実があったと。

はい。そこから大学4年間は「漫画家は無理だな」と諦めてしまい、課題だけ出して遊びまくる日々でした。卒業後に未練があって出版社に作品を持ち込んだところ、本気で厳しい言葉をかけてくれる担当編集さんと出会ったんです。そこから本気で取り組んで「週刊ヤングジャンプ」の期待賞をいただくことができました。とはいえ、そこから掲載までが本当に遠かったですね。その最中にまた折れて、半年くらい一切漫画を描かない時期がありました。

(第4回へ続く)


成田成哲(なりた・なりあき)
漫画家。集英社が運営する漫画誌アプリ「少年ジャンプ+」で漫画『筋肉島』を連載中。過去には盲目の主人公を描いた格闘漫画『アビスレイジ』や、ボディビルダーのチートデーをテーマにした『マッチョグルメ』を発表し人気を博した。自身もトレーニングに励んでおり、SNSでは筋トレ風景などを発信している。

取材・文・写真/森本雄大
画像提供/集英社

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