佐久間編集長のパーソナルトレーナー百人斬られ(仮)Vol.31 衣笠慎一 前編




VITUP!編集長・佐久間が全国のパーソナルトレーナーさんを巡っていく「パーソナルトレーナー百人斬られ(仮)」。今回は「背骨」の動きに着目したピラティスを用いたトレーニングを得意とする衣笠慎一トレーナーが登場。前編ではその歩みを紹介していきます。

衣笠慎一トレーナーがこの仕事を志したのは「ケガ」がきっかけでした。小学1年生から野球を始め、中学、高校、大学と白球を追いかけ続けていくなかで、ケガと向き合う場面が多々ありました。

 

「僕らの時代はまだ自由に水が飲めなかったり、無茶なことをやったりしていました。野球部は筋トレよりもとにかく走っていることが多かった印象です。高校2年生のとき、ヘルニアを発症して野球の練習ができなくなって、そのときにトレーニングをして、半年で8㎏もウエイトアップしたんです。最初は上半身、ヘルニアが治ってきてからは下半身というふうにトレーニングをしていくと、筋肉がついていって、完全に自己満足の世界ですよね(笑)。体がごつくなったり、ボールが速くなったり、打球が遠くまで飛んだりしていたので、やっぱりトレーニングは必要だなと感じました」

 

ケガが治り、大学進学後も野球に取り組んでいたものの、再びケガに見舞われ、大学中退を余儀なくされます。仕事を探す際、衣笠さんには「スーツを着る仕事はしたくない」という気持ちがあり、スポーツクラブにアルバイトスタッフとして入社。その後、社員に昇格すると、スタジオインストラクターを務めることになりました。

 

「インストラクターをやり始めた頃は、正直に言うと嫌でした(苦笑)。人前で喋るのは好きではないし、インストラクターさんはニコニコしているじゃないですか。それも得意ではないんですよね(笑)。会社の指示でやり始めてしばらくすると、ある方から『君は向いてないからやめたほうがいい』と言われました。自分でも向いていないとは思っていましたが、人からそう言われるとカチンときて、逆にやってやろうと思うようになったんです。やれることを全部やって、それでもダメなら次のことを考えればいいかなと思って、笑顔で(笑)、続けていました」

 

衣笠さんが勤めていたスポーツクラブのスタジオは、50人から広いところでは100人を対象にレッスンをすることもありました。苦手なことにも向き合い、インストラクターとしての実力がついてくると、新たな疑問が浮かんできたと言います。

 

「インストラクターとしてやれることの限界を感じてしまったんです。スポーツクラブにずっと勤めていて、上にいって支配人になったとしても、その先がないと思ったんです。それなら外に出ていろいろな仕事をしてみたいと思いました。当時はトレーナーとしての知識はゼロだったので、フリーのインストラクターとして、奈良、大阪、兵庫、京都と関西圏を回っていました」

20代前半と若かった衣笠さんは、関西圏を飛び回って一日5~6本のレッスンを受け持つ活動をしていましたが、稼働が多くなれば当然肉体の負担も大きくなり、仕事を終えて帰宅するとスネの痛みに悩まされるようになりました。

 

「インストラクターは体を酷使する仕事です。激しい動きのレッスンを毎日5~6本やっていると、スネに疲労骨折みたいな痛みがあって、ずっと続けていくのは肉体的にきついことがわかりました。40代、50代でインストラクターをやっている方もいますが、どうしても若い人と比べるとニーズが減っていくという現実もあります。やるべきことを目一杯やったなかで、トレーナーへの転身を考えるようになりました」

 

トレーナー転身を決めた衣笠さんが着目したのは、ピラティスでした。ピラティスは、ドイツ人の元従軍看護師であるピラティス氏の名前に由来しています。女性がキレイになるために行なうもの…とイメージしがちですが、元々は戦争の負傷兵の身体機能の回復や精神の安定といったリハビリを目的として、発案されたものです。

 

「トレーナー業界はボディメイクとダイエットが二大看板で、この2つは競争相手も多いんです。どうせなら違うことをやろうと考えて背骨に着目しました。鍛えて体がごつくなるのは、すべていいことではなくて、重りがつくということは、歪みとも言えます。僕自身たくさんケガをしてきましたし、重りがつくとケガをしやすくなる部分もあるので、体の土台である背骨や骨盤まわりを鍛えたほうがケガ予防につながるし、持っている力を最大限に使えるようになると考えたんです。背骨や骨盤まわりにアプローチしようと思って、ピラティスのライセンスをとりました」

 

体を安定させてこそ、安心してトレーニングができ、なおかつ効率よく成果を上げることもできる。人間の発達学に基づいた衣笠さんの指導は、高齢の方から、アスリートまで、誰にでも有効なものとなっています。

 

二十歳からトレーニングにまつわる仕事を始め、インストラクターとトレーナーを合わせるとキャリアは20年を超えた衣笠さん。今後はさらに多くの人に安全に運動を楽しんでもらいたいと目標を語ります。

 

「ピラティスを行なっているお客様は中年層から高齢の方が多いです。他にはアスリートを世界に羽ばたかせることも目標として取り組んでいますし、小学生になったばかりの子どもから中学生までも多く指導しています。今はすごく運動能力が高い子がいる一方で、全然できない子も多くて、子どもの運動能力の差がすごく大きいと感じています。昔は外遊びが多くて、誰でも一定レベルの運動ができたけど、今はそうではないんです。だからこそ、運動が苦手な子に効果的なやり方を伝えていきたいです。アスリート、子どもからお年寄りまで、人間全員が楽しく運動ができるようになってほしい。トレーナーとして目指すのはオールマイティーです」

 

 

自身がケガに苦しんできたからこそ、ケガなく運動を楽しんでほしい。衣笠さんにはそんな思いがあります。誰もが安心して取り組めるように、ピラティスを用いて、人間の発達に基づいたトレーニングを提供していきます。

 

 

というわけで今回はここまで。次回は実際にピラティスを用いた衣笠さんのトレーニングを体験します。

 

 

【トレーナーPROFILE】
衣笠慎一(きぬがさ・しんいち)
スタジオインストラクターを経て、パーソナルトレーナーに転身。背骨の動きに特化したピラティス、姿勢&動作改善、体幹トレーニング、ゴルフスイングの向上を専門分野とする。骨の配置に着目し、老若男女問わず、ピラティスを用いた運動指導をしている。

 

【店舗情報】
パーソナルトレーニング「at ease」
住所:尼崎市尾浜町3-31-13
営業時間:月~土 10:00~22:00 日・祝 10:00~20:00 ※年中無休(年末年始・夏季休暇を除く)
パーソナル料金=8,000円(60分)
※詳しくはHP参照

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。