“魚住”だって走れている。誰よりも走る日本人センターの核心【太田敦也(前編)】




試合中ほぼ走りっぱなし、ジャンプにコンタクトなど、フィジカル要素が詰め込まれた競技であるバスケットボール。漫画・SLAM DUNKでおなじみの同競技には5つのポジションが存在し、各々が支え合ってチームを形成している。

コート上の監督と呼ばれるポイントガード(PG)、外角シュートやPGの補佐を務めるシューティングガード(SG)、オールラウンドな得点能力に優れたスモールフォワード(SF)、ゴール下を主戦場とするパワーフォワード(PF)、ゴール下の要となる大黒柱・センター(C)がそれぞれの役割をはたしているのだ。

そこで本企画では各ポジションの選手に注目し、必要なフィジカルやトレーニング方法を紹介する。今回話を聞いたのは、三遠ネオフェニックスに所属する太田敦也選手。日本が誇るベテランセンターのフィジカルに迫った。

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©SAN-EN NEOPHOENIX

押し勝つのではなく、こらえる

「センターとは我慢だと思います」

柔和な男の言葉の影に、大樹のごとき意思が垣間見える。その一言に、太田敦也選手のすべてが凝縮されているように思えた。

冒頭で触れたように、センターとはゴール下の攻防で要を担う存在だ。チームで一番大柄な選手が務めることが多く、まさにチームの大黒柱と言えるだろう。近年のBリーグ(男子プロバスケットボールリーグ)では外国籍センターが主流となっている中で、太田選手は現役17年目を迎える日本人ビッグマン。206cmの体躯はもちろんのこと、彼の真髄はその堅実なプレーにある。

「僕自身、別に体を当てるのが嫌いではないので、積極的にコンタクトに臨めるというのは強みだと思います。昔からとにかく守ってリバウンドして、また走るというのを繰り返してきたので、体に染みついているのかもしれないですね」

センターは攻守の要。相手チームの得点源とのマッチアップも日常茶飯事だ。日本人センターというだけで狙われることも多々あり、つねに激しいコンタクトにさらされている。2m越え、100キロ越えの選手との競り合いを繰り返す中で、彼は闘い方を身に着けてきた。

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「何も押し勝つ必要はないと思っています。大切なのはこらえることですね。外国籍センターに攻められた時に、少しこらえるだけで味方からヘルプをもらえたりしますし、それによって得点を防ぐことができます。当たりの強さは上半身も関係しますけど、踏ん張るためには強い下半身と体幹が必要不可欠です」

上背がある分、しっかりと腰を落とさないと当たりに負けてしまう。重心を低くし、どっしりと構えて“こらえる”こと。そのために日々、スクワットを始めとした基礎的な筋力強化を怠ることはない。そしてその我慢強さは、太田選手にもうひとつの強みを与えた。

走れる2mセンターであれ

コートでの移動距離が一番長いのもセンターの特徴だ。そんな中で太田選手は“走れるセンター”という評価を確立している。

「ただやっているだけだとアドバンテージが取れないんです。そんなに足が速いわけではないですけど、攻防のポイントで積極的に走ったり、動いてスクリーン(自らが壁になって味方の補助をするプレー)に行くなどは意識しています。走ることが意外と効果的だったりもするので、それで続けている部分もありますね」

一般的に体力、脚力で劣るとされるビッグマンの中でも、太田選手の走力は折り紙付きだ。彼はそんな力をどのようにして手に入れたのか。

「ビッグマンと言っても、まったく走れない選手はいないと思っています。たとえば、マンガ『SLAM DUNK』では、2mセンター・魚住純がフットワークの練習で苦戦している姿が描かれていますけど、最初はみんなきついんですよね。ただそこで『もう少しやろう』という気持ちを持てるかどうか。魚住も最後は走れていますから。僕はガードの選手にも負けないという気持ちで、学生時代からランメニューをやっていました」

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日本が誇るビッグマンは、ベテランの域に達した今もダッシュ、ラントレ、ゲームといった練習で徹底的に己を追い込み続ける。その結果が、縦横無尽に動き回るプレースタイルにつながるのだ。長身選手に対するアドバイスもあくまで精神論だが、彼の言葉にはどこか重みがある。

「走れないから諦めるというのは考えていませんでした。そもそも大きい選手は、『走れなくて当たり前』と周囲がハードルを下げてくれていますよね。だから、走りで怒られることはあまりないと思います。やった分だけ伸びしろがありますから、あとはやるだけです。一生懸命走ればいいと思えば気持ちは楽かと思います」

(後編へ続く)

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