「接客も皿洗いもできなくて」マンガ一筋10年間、『筋肉童話』で拓けた境地【赤信号わたる(前編)】




マッチョな童話キャラが話題を呼び、SNSで注目を浴びた『筋肉童話』。作品のポイントや思いを伺った前回をふまえ、今回は作者である赤信号わたるさんの人生に迫ります。過去の作風とは一変し、筋肉にフィーチャーしたマンガを描いた理由、そしてマンガ家としての歩みとはいったい――。話題の筋肉マンガ家を直撃しました。

【イラスト集】『筋肉童話』で大バズリ。すべて筋肉で解決するおとぎ話のキャラたち

――Twitterで話題を呼んだ『筋肉童話』ですが、筋肉×おとぎ話というのはかなり奇抜な組み合わせだと思います。この作品はどういった経緯で生まれたのですか。

もともと童話を題材とした別のマンガを描いていたのですが、その流れで今度は自分の好きな筋肉と組み合わせようと思って描き始めました。本作を制作するにあたって、筋肉の描き方はいろいろと勉強し直しましたね。

――努力もあって生まれた作品だったのですね。ちなみに、筋肉を描くハウツーはどこで学んだのですか。

「ここの筋肉どうなっているんだろう」と気になった部位は、ポーズマニアックスというクリエイターがよく練習に使っているサイトを見ながら描くようにしました。その他にも実際の人物を参考にしたり、自分で確かめたりしながら画力を上げていきました。

――筋肉を描く上で、とくに気をつけたことはありましたか。

僕はゴリゴリの筋肉も魅力的だと思うんですけど、それだと元から筋肉好きの人だけに刺さるコンテンツになってしまうと思いました。いろいろな人に見てもらって、筋肉の魅力を伝えられるように『怖いゴリマッチョ』にはならないように意識していました。

――赤信号さんが伝えたい筋肉の魅力とは?

造形的にそもそも筋肉はかっこいいですし、筋トレしていることによってみなぎる自信もあると思うんです。作中のムキムキなキャラクターが筋肉ですべてを解決して「やっぱ筋肉だな」とハッピーエンドを迎える姿から、筋肉のポジティブな魅力を伝えたいです。

――筋肉が人に良い影響を与えているというところを描きたかった。

はい。最初に描いたシンデレラもそうですが、ひどい目にあっているはずなのに全然苦になっていないんですよね、「このキャラたちは筋肉によって自信がついているんだ」と感じてもらえたらうれしいです。

――赤信号さんはこれまでも、奇抜な発想から人気作品を生み出していますよね。中でも『オヤジが美少女になってた話』は話題になった作品のひとつだと思います。

そうですね。『オヤジが美少女になってた話』を描いてからは一気に状況が変わりました。それまでは、美術大学卒業間近に集英社のマンガ賞・手塚賞佳作に選ばれて以来、10年近く鳴かず飛ばずだったのですが、「頭を空っぽにして、作風も変えてギャグマンガを描いてみよう」と思い切って方向転換した結果、出版までさせていただけるほどの反響がありました。

――まさに人生を変えた作品ですね。 結果が出なかった10年間、マンガ家をあきらめることは考えませんでしたか。

正直、考えました。でも昔からマンガが好きでしたし、自分はこれ以外何ができるんだというくらいダメ人間だと思っていたので、何があってもマンガの道で生きていこうと決めていました。

――何か自信をなくすような出来事があったのでしょうか。

びっくりするほど不器用で、学生時代のアルバイトでミスを連発していたんです。宴会場やカラオケ店などで働いていたのですが、行かなくてもいいタイミングでお客様に話しかけてしまったり、洗い物すら満足にできなかったりと、周りに迷惑ばかりかけていたので、他の道のほうが社会に貢献できるかもしれないと思うようになりました。その中で自分にあったのが『マンガを描くこと』だったので、自分の道を信じてやり続けました。

――その結果、赤信号さんの今があると思うと感慨深いです。

ありがとうございます。とはいえ自分はバカなのか、漠然と「何とかなるでしょ」と思い続けられたことも大きかったと思います。美大に行ったら自分よりも絵が上手い人がたくさんいる中で、なぜかマンガ家としての希望を持ち続けることができたんです。そこはバカで本当によかったと思っています。

――紆余曲折を経た2021年、Twitterで『筋肉童話』第1話『全てを筋肉で解決するシンデレラ』を公開しました。筋肉をテーマにした作品は初めてだったかと思いますが、反響はいかがでしたか。

ありがたいことに、今までになかった声が届くようになりました。一言でいうと「筋肉マンガ家として認知されるようになった」と思います。『筋肉童話』以外の作品を投稿した時も「筋肉だ」「筋肉をくれ」というようなコメントをいただいたこともありましたし、森永製菓さんから声をかけていただき、プロテイン製品とコラボするなど想像もつかないことが起こっていきました。

(後編に続く)

【イラスト集】おとぎ話のキャラがマッチョに。『筋肉童話』の一部を公開


(プロフィール)
赤信号わたる(あかしんごう・わたる)
『筋肉童話』がきっかけで自身もトレーニングを始めた“筋肉マンガ家”。現在はコミックヴァルキリーにて『ヤンキー悪役令嬢 転生天下唯我独尊』を連載している他、Twitterではさまざまな短編マンガを公開中。