佐久間編集長のパーソナルトレーナー百人斬られ(仮)Vol.34 吉野達彦(Forzaフィットネススタジオ)前編




VITUP!編集長・佐久間が全国のパーソナルトレーナーさんを巡っていく「パーソナルトレーナー百人斬られ(仮)」。今回登場するのは7店舗のセミパーソナルジムを経営しつつ、プロレスラーとしても活躍する吉野達彦トレーナー。ジムの代表、トレーナー、プロレスラーと多彩な活動を展開する原動力に迫りました。

「挨拶、笑顔、返事です」

 

吉野達彦トレーナーに、トレーナーとして大事にしていることを聞くと、さわやかな笑顔とともに、こんな答えが返ってきました。さわやかスマイルが印象的な吉野さんですが、トレーナーに加えてプロレスラーとしての顔も持っています。

 

「小学生の頃からプロレスが好きでした。大学に入学してプロレス研究会を見に行ったら、学生プロレスといっても想像以上に激しかったんです。これは体を鍛えないとダメだと思いました。そこでアルバイトで時給をもらえて、なおかつ体も鍛えられる環境を探して、大手のフィットネスクラブでアルバイトを始めました」

 

学生プロレスをきっかけにフィットネスクラブで働くことになり、「トレーニングが楽しくてハマってしまいました」という吉野さん。最初は週3勤務からはじめ、単位を取り終えた4年時には、ほぼフルタイムで勤務。お客様のウエイトトレーニングの補助をする機会も多く、のちの人生に大きな影響を与える出会いもありました。

 

「よくトレーニングの補助をさせていただいていたお客様がいたんです。就職に伴いフィットネスクラブを卒業する際に、その方がストレングストレーナーだということを教えてもらって、『何かあったら声をかけて』と言ってもらいました」

 

大学卒業後、吉野さんは広告代理店に就職。プロレスともフィットネスとも違う世界で新たな一歩を踏み出します。ところが、本人いわく「絶望的に営業に向いていなかった」ため、方向転換を余儀なくされます。

 

「学生プロレスをしっかりやり切ったので一区切りとして、就職しました。その頃は社会に出ても何でもできると思っていたんでしょうけど、営業には向いていませんでした(苦笑)。本当にダメで、1年半で退職することになりました」

 

退職を考えていた頃、プロレス団体を率いていた学生プロレス時代の先輩から、「試合をしないか?」と誘いを受けます。そして、トレーニングを積んでプロレスラーとしてデビューを果たしました。時を同じく、トレーナーとしても動き始めます。そのきっかけとなったのが前述の学生時代に補助をしていたお客様でした。

 

「フィットネスクラブ時代のお客様で、ストレングストレーナーの方に、広告代理店をやめてフィットネス業界に戻ろうかと思っているという話をしました。そのときに『一緒にやらないか?』と声をかけていただき、弟子入りさせてもらったんです。師匠がいろいろな高校に指導に行くときには帯同させてもらって、ここでパーソナルトレーナーとしての基礎の基礎を学ぶことができました」

 

プロレスラー、トレーナーの二足の草鞋で活動を続けるなか、大きな転機が訪れます。2014年、師匠がパーソナルジムをオープンすることになり、吉野さんは「店長をやってほしい」と依頼を受けます。そしてオープンしたのが、「Forzaフィットネススタジオ」でした。

 

「2014年に現在のジムの前身がオープンして店長を任せてもらいました。その後、師匠から『全部オマエにあげるから』と譲り受けて、敷金から器具から全部そのままいただきまして、2015年に独立という形をとらせていただきました」

こうして自らのジムを持つことになった吉野さんは、プロレスラーとしても活躍の場が広がっていきます。2017年には大日本プロレスの所属となり、月に平均20試合をこなしながら、3店舗(当時)を経営する日々を過ごします。多忙な日々が続いても、それが苦になることはまったくなかったと言います。

 

「とにかく仕事が好きなんですよ。普通の方は一日8時間働きますよね。プロレスラーで8時間やって、残り16時間あるなら、もう8時間仕事をしてもいいんじゃないかって考えたんです。一日24時間を3分割で考えたら、フルタイムで2つできるんです。昔はよく『片手間』とか『兼業』と言われたのですが、どちらも8時間ずつ稼働しているので、片手間ではないんですよ(笑)。プロレスは好きなことなのでライフワークです。一方、フィットネスはお金を稼ぐための“ライスワーク”なんです。プロレスは好きなんですけど、たぶん向いてない(笑)。でも、フィットネスは向いているんです。好きなことと得意なことを両方やるからこそ、バランスが取れているんだと思います」

 

首の負傷後は試合数を減らしているものの、プロレスを続けるのは「好きだから」。そして、大日本プロレスへの恩返しの気持ちです。

 

「首をケガしてから、月に20試合をこなすのは難しくなり、引退を考えました。そんなとき、大日本プロレスの登坂栄児社長に『プロレスラーの肩書きがあったほうがいいだろうから、月に1試合でもできるなら、引退しないで続けたらどうだ』と言っていただきました。普通は月に1試合しかできないレスラーと契約はしてくれません。この恩があるので、大日本プロレスのためには何でもするという気持ちです」

 

一方のジム経営は順調で、現在は都内と地元の秋田に7店舗を構えるほど。これはパーソナルジムからセミパーソナルジムへの転換が大きなポイントでした。

 

「今まではトレーナーを養成して、優秀になるほどお客様がたくさんついて、自分でやったほうが稼げるからと独立してしまう。この繰り返しでした。そもそも設計と設定が間違っていたと気づきました。パーソナルジムでは5店舗以上はビジネスモデルとして無理だと思って、セミパーソナルに移っていったんです」

 

「Forzaフィットネススタジオ」はかつてのフィットネスクラブのように、運動指導や、声掛け、安全管理をするのがトレーナーの主な仕事。セミパーソナルジムなので、トレーナーが勤務時間外にお客様のセッションをした場合は、100パーセントがトレーナーの収入。場所代もパーセンテージも必要ないとなれば、トレーナーに独立する理由がなくなります。その結果、人材を手放すことがなくなり、店舗を増やしていくことが可能になりました。

 

冒頭に記したように、吉野さんのモットーは「挨拶、笑顔、返事」。ヒューマンスキルと同時に、必要以上に「教えないこと」も大事にしています。

 

「学生時代にフィットネスクラブでアルバイトをしていたとき、僕の何倍もマッチョな人から『吉野くんを指名するよ』と言われました。何も教えられることはないので困惑していたら『横で回数を数えてくれればいいよ。気持ちいいから』と言ってくれたんです。そこで、人に寄り添うのもパーソナルの一つの形なんだと思いました。長々といろいろ教えるよりも、お客様に気持ちよくトレーニングをしてもらう。ティーチングよりもコーチングですね。安全に気持ちよくお客様がトレーニングをしてくれればOKです」

 

トレーナー、プロレスラーであり、ジム経営者でもある吉野さんには、大きな夢があります。

 

「笑われるかもしれないですけど、将来は100店舗持ちたいです。コロナの辛い時期を一緒に乗り越えてくれたスタッフ、社員には良い思いをしてほしいので、目標は大きく持ってやっていきます」

 

さわやかさの中に秘めた熱い思い。ライフワークのプロレスとライスワークのフィットネスによる相乗効果で、吉野さんは夢の100店舗を目指していきます。

 

というわけで今回はここまで。次回は実際のトレーニングを体験させてもらいます。

 

 

【トレーナーPROFILE】
吉野達彦(よしの・たつひこ)
1985年8月31日、秋田県出身。学生時代よりフィットネスクラブのインストラクターを務める。大学卒業後、広告代理店勤務を経て、トレーナーの道へ。同時にプロレスラーとしても活動を開始し、2017年から大日本プロレスに所属となり、2020年にはBJW認定ジュニアヘビー級王座を獲得した。現在はForzaフィットネススタジオの代表を務め、7店舗を経営する。

【店舗情報】
Forzaフィットネススタジオ
〔住所〕東北沢店=東京都渋谷区上原3-23-5 オーガストハウス3F
〔営業時間〕平日10:00~21:00/土祝10:00~18:00(日曜日休館)
〔料金〕入会金5,500円/月4回プラン13,200円/月6回プラン16,500円/月8回プラン19,800円
※この他、池袋店、神田店、下高井戸店、住吉店、行徳店、秋田店(すべて女性専用)あり。料金、営業時間は店舗によって異なるためHPをチェック。

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。