佐久間編集長のパーソナルトレーナー百人斬られ(仮)Vol.35 渋谷カズキ(FIGHTER’S FLOW)前編




VITUP!編集長・佐久間が全国のパーソナルトレーナーさんを巡っていく「パーソナルトレーナー百人斬られ(仮)」。今回登場するのはVITUP!にて「デートするならジムがいい」を連載中の渡辺華奈選手が所属するジム、FIGHTER’S FLOWの渋谷カズキトレーナーです。前編では現役格闘家としても活躍する、渋谷トレーナーの歩みを紹介していきます。

渋谷カズキトレーナーは、自身のトレーナーとしてのモットーは「正直でいること」だと言います。お客様ありきの仕事とはいえ、取り繕った自分で接することはせず、ダメなものはダメとハッキリ言い、わからないことは「わからないので勉強してきます」と正直に伝える。言ってみればお客さまと本気で向き合うスタイルです。

 

お客様と本気で向き合う渋谷さんは、自分自身とも本気で向き合って生きてきました。幼少の頃から本気で取り組むことは、一番を目指さないと気が済まないタイプ。物心がつく前、3歳から始めた体操は「生活になくてはならないもの」と言い切れるくらい、練習が生活の一部になっていました。

 

日々の練習によって体操の腕はメキメキと上達し、最高峰の舞台であるオリンピックを目標に掲げていたものの、中学2年時にヒジの大ケガを負い、挫折を経験します。

 

「ケガをするまでは二十歳くらいでオリンピックに行くという人生設計をしていました。ところが中学2年生のときにヒジを大ケガして、もうオリンピックは無理だと思ってしまったんです。というのも、体操は代表選手になる年齢がすごく低くて、高校生になるくらいにはオリンピックの強化指定選手に入っていないといけないので、ここでケガをしたらもう無理だなと落ち込みました」

 

体操競技は早くから活躍する選手が多いのは事実で、オリンピック金メダリストの内村航平さんや橋本大輝選手は、10代で代表入りし、オリンピックのメダリストに輝いています。また、元世界選手権金メダリストの白井健三さんは、渋谷さんより三つ年下で、17歳で世界王者になっています。こうした体操界の状況から、14歳にして方向転換を余儀なくされたというわけです。

 

ケガをして落ち込んでいるときに、たまたま目にしたテレビの影響で、渋谷さんは別の世界に引き込まれていくことになります。

 

「ケガをしたときに、偶然テレビで格闘技を見たんです。それが須藤元気さんの試合でした。面白い入場をしていて、これは紅白歌合戦か?と思ったら試合が始まって、ボクシングでもないし、キックボクシングでもないし、プロレスでもない。見ているうちにその世界に引き込まれていました。子どもの考えなので、体操はもう無理でも、これならがんばれば世界一を目指せるかもしれないと思ってしまったんです(笑)」

 

体操競技は高校卒業と同時に辞めて、大学進学後は格闘技の世界へ。自宅から通える場所にあり、月謝も手ごろだったブラジリアン柔術の道場に入門し、格闘技人生をスタートさせました。

 

「体操一筋だったので格闘技は初めてでしたが、楽しい、面白いというのが第一印象でした。体操をやっていたおかげで動きを真似るのは得意で、先生がやった動きをすぐにできるようになりました。練習に参加すればするほど自分が強くなるのがわかって、体操とは違う楽しさ、魅力を感じました」

 

柔術で格闘技のキャリアを積んでいき、グラップリングにも挑戦すると、道場の先輩から「MMAをやったらいいんじゃない?」と提案を受けます。渋谷さんにはMMAに挑戦したい気持ちはあっても、所属の柔術道場では打撃やMMAの練習をすることができません。そこで紹介されたのが、元修斗世界ライト級1位の植松直哉氏が主宰するネクサセンス東京 立川道場でした。

 

「柔術がベースの植松先生のジムにはMMAクラスがあって、そこでは打撃もMMAも教われるということで、道場の皆さんの背中を押してもらって、移籍することになりました」

 

ネクサセンス東京 立川道場でMMAの練習を積んだ渋谷さんは、パンクラスの「2015プロ昇格トーナメント」にてスーパーフライ級で優勝。2015年10月4日、ディファ有明でのデビュー戦を勝利で飾り、プロ格闘家としての一歩を踏み出しました。

 

ところが、デビュー戦の後は白星に恵まれず、まさかの5連敗。引退を考えたときに、人生の大きなターニングポイントが待っていました。

 

「デビュー戦の後は全然勝てなくて、それどころか、両目とも眼窩底骨折をしたり、鼻を潰したりして、母親を泣かせてしまったので、もう格闘技は引退しようと思っていました。そんなときに、FIGHTER’S FLOWの上田貴央代表に声をかけてもらったんです。『プロ格闘家が教えるジムをつくるから、渋谷もやってくれないか』と誘われました。そこで『もう引退するんです』と言ったら、『俺が仕事の仕方も教えるし、格闘技の練習の仕方も教えるから、一緒にもう一回がんばってみないか』と熱く言ってくれたんです」

 

上田代表の熱意に押される形で引退を踏みとどまったものの、この時点ではあくまでも「とりあえずやってみる」というスタンス。しかし、格闘家とトレーナーの二足の草鞋が、予想もしなかった相乗効果を生んでいきます。

 

「それまでは飲食店でアルバイトをしながら格闘技をやっていて、自分には何もありませんでした。でも、上田代表にトレーナーとしての知識、お客さまへの対応の仕方を教わり、トレーナーという柱と格闘家という柱を同時に進めていくと共通点が出てくるんです。トレーニングでは筋トレもやりますし、格闘技の指導もします。お客様に質問されると、いろいろ気づきがあったり、わからないことがあったりして、その場合は次回までに調べておきますと伝えて、勉強するようにしていました」

 

それまでは格闘家としてインプット重視だったものが、トレーナーになったことでアウトプットの必要も出てきました。その結果、知識や技術が整理され、自身のレベルアップにつながっていき、連敗中だった試合でも、勝てるようになっていったのです。

 

「格闘技もトレーナーも終わりはないと思っています。トレーニングの仕方もそうですし、栄養面に関しても日進月歩で進んでいく知識なので、常に最新の情報をチェックするようにしています」

 

アップデートを続けるなかで、渋谷さんがトレーナーとして、一つの武器としているのがアニマルフロー公式インストラクターであること。

 

「山本KID徳郁さんやUFC王者のコナー・マクレガーが練習で妙な動きをしていて、なんだろう?と思って調べてみたら、アニマルフローだったんです。さらに調べると当時は日本では公式インストラクターが100人もいなくて、この資格を取ったらレアじゃね?と思って、資格を取りました(笑)」

 

どん欲に学ぶ姿勢から、他のトレーナーとは違う武器を手に入れた渋谷さんは、この先も格闘家として、トレーナーとして、さらなる進化を目指します。

 

「格闘家としての目標はベルトを獲ること。2~3年後にはベルトを獲って、渡辺華奈選手みたいに世界で闘える選手になりたいです。格闘家としてのピークの35~36歳まではしっかり格闘技をやって、その後はFIGHTER’S FLOWに関連するトレーニングジムや格闘技ジムを自分でも出せたらと思っています。まだまだやらなければいけないことがたくさんありますが、学ぶのは楽しいです」

 

今年三十路を迎える渋谷さんは、トレーナーとしても格闘家としても、全盛期を迎えるのはこれから。自分ともお客様とも本気で向き合いながら、二本の柱でそれぞれの目標に向かっていきます。

 

というわけで今回はここまで。次回は渋谷トレーナーが得意とするアニマルフローを体験させてもらいます。

 

 

【トレーナーPROFILE】
渋谷カズキ(しぶや・かずき)
1993年10月14日、東京都出身。学生時代は体操選手として活躍。東京都新人大会個人総合優勝などの実績を残す。2015年10月4日、パンクラス・ディファ有明大会でプロ格闘家としてデビュー。以後、パンクラス、DEEPなどでキャリアを重ねながら、FIGHTER’S FLOWでパーソナルトレーナーとしても活動。アニマルフロー公式インストラクター、ライフセーバーの資格を持つ。

【店舗情報】
FIGHTER’S FLOW パーソナルスタジオ
〔住所〕東京都新宿区高田馬場3丁目22−1ペガサスジムB1F
〔営業時間〕月~木13:00~21:00/金13:00~18:00/土12:00~18:00(日曜不定休日。営業の場合は13:00~18:00)
〔料金〕
入会金=無料/初回体験=4,900円(※2回目以降は回数券制)5回券=35,000円/10回券=65,000円/20回券=120,000円/30回券=165,000円
※パーソナルトレーニングのクラスの詳細やその他のプランはHPをチェック。また、FIGHTER’S FLOW総合格闘技ジムの詳細はこちらをチェック。

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。