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絶望の先に見えた「型」という光。空手団体の職員が夢舞台で世界一を狙う




世界最大規模のフルコンタクト空手団体・新極真会の事務局員として従事する志村朱々璃(すずり)は、現役の空手選手でもある。5歳から空手を始め、時に挫折を経験しながらも第13回世界大会の型部門で初めて日本代表入りをはたした27歳の青年は、選手として日の目を浴びるまでにどんな歩みを続けてきたのか。

――世界大会へのあこがれは子どもの頃から強かったんですか。

「そうですね。どの大会も印象に残っているんですけど、第10回大会は塚本(徳臣)先生がすごい一本勝ちをされたので印象深いです。単純にお客さんとして誰が勝つんだろうと、それこそドラゴンボールの『天下一武道会』を見るような楽しい気分で見ていたのは、塚越(孝行)先生が優勝された第9回ですね。大阪で開催された第3回世界ウエイト制大会(体重別世界大会)も当時、ご指導をいただいていた砂川久美子先生が出場されたので応援に行きました。僕が小学4年生の時だったんですけど、あの大会も印象に残っています」

――いつか自分も世界大会の舞台に立ちたいという気持ちはありましたか。

「いえ、当時は怖いなという気持ちもあって、自分が立つのは想像できなかったです。ただ、漠然と世界ウエイト制大会に出たいという気持ちはありました。僕は体格が小さかったので、現実的に無差別よりも体重別のほうだなと考えたんだと思います」

――高校2年生だった2013年3月のJKO昇段審査会では、初段昇段を決めて黒帯を取得しました。

「泣きそうになるくらいうれしかったです。黒帯に対するあこがれも強かったですし、茶帯を取ってから5年くらい空いていたのもありますし、先輩方が昇段審査で苦労されているのを毎年見てきたので、すごく難しいものだという印象がありました。自分のホームである総本部道場で、緑(健児)代表の前で合格させていただいたこともものすごくうれしかったです。空手で生きていくという覚悟を決めたのは事務局に入った時ですけど、黒帯を取った頃から空手は一生やり続けるものなんだ、切っても切れないものなんだというのは感じていました」

当時、小学6年生。新極真会の緑健児代表から「努力賞」が贈られた

――全日本大会やJFKO全日本大会といった全国規模の大会は、2日間のトーナメントで行なわれます。選手として出場するものの、初日で敗退して2日目はスタッフとして裏方業務に徹するケースもたびたびあったと思いますが、葛藤のようなものはありましたか。

「正直な気持ちを言うと、内心は煮えくり返るくらいの悔しい思いがあります。2日目にスタッフ業務をしていると、歩くたびに足が痛かったりするんですよ。ものすごく切ないですし、自分への怒りも湧いてきます。もちろん切り替えなければいけないんですけど、その気持ちがなくなってしまったら選手としては終わってしまうと思うんですよね」

――昨年9月にポーランドで行なわれた第7回世界ウエイト制大会は、スタッフとして選手をサポートする立場でした。

「世界ウエイト制に出場するのは昔からの目標でしたし、2019年の第12回世界大会が終わった直後に、ポーランドは絶対に選手として行くんだと自分の中で決めたんです。だから選抜漏れした時はものすごくショックで、誰にも言わなかったですけどもう空手をやめようかなと一瞬思いました。ポーランドの2ヵ月後に東北大会があって、そこで優勝できたことで救われた部分は大きかったです。あそこで優勝できていなかったら、おそらく選手としてのあきらめが入ってしまっていたと思うので。それに加えて、世界大会に型部門が導入されることが決まったので、もう一度がんばろうという気持ちになれました」

――違った道が開けたんですね。型日本代表の選抜戦となった今年7月のドリームフェスティバルでは初戦敗退を喫しましたが、リザーバーから日本代表入りをはたしました。

「選抜戦の時はポーランドと同じくらい悔しかったです。総本部事務局に入局した時から、恩を返す意味でも日本代表にならないといけないと、両親からも事務局長の小井(泰三)先生からも言われていたので。結果的に選んでいただけてすごくうれしいですけど、選抜戦で一度も勝っていないので、世界大会は絶対に勝たなければいけないという思いがあります。世界大会で勝てば、一気に変わると思いますので」

今年7月、第13回世界大会の選抜戦となった「カラテドリームフェスティバル2023全国大会」に出場した
9月には選手兼スタッフとして、型の日本代表強化合宿に参加

――世界大会は一回戦を突破すれば、優勝候補の一角であるヨーロッパチャンピオンのニコライ・ラン・イェンセン選手と対戦することになります。

「そこはものすごく意識しています。組手と同じように、日本人とぶつかるところまで負けてはいけないなとすごく感じます。とくに今回は型の世界大会が1回目ですし、ここで自分たち日本人が勝たないと組手の選手たちが築き上げてきたものも台無しにしてしまうような気がするので、がんばらなければなと思います。自分の型が日に日によくなっているのを感じるので、もしイェンセン選手と対戦したらいい試合になると思います」

――型の難しさやおもしろさは、どんな部分にありますか。

「難しさで言えば、自問自答を繰り返すところですね。やり込んでいくうちに思考が偏って正解がわからなくなることがあって、まわりの人たちに見てもらったり自分でも映像を客観的に見ることで、フラットに戻していくようなことを繰り返しています。ここまで競技として突き詰めて型をやるのは初めてなので、そういったところに難しさを感じますね。おもしろさで言うと、組手は対人なので人と手を合わせた時に初めていろいろなことを感じるものなんですけど、型の場合は後で映像を見てここが直っているなとか、ここのキレが増しているとか、うまくいったことを内観できるところかなと思います」

――志村選手の型の特長はどんな部分ですか。

「基礎からは外れていないんですけど、わりとダイナミックな型ができるところかなと思うので、世界大会ではそこを活かしたいなと思います。1回目で手探りな部分もあるので、自分の信じる型をやり切るしかないですね」

――これまでの歩みを振り返って、空手をやってきてよかったと思いますか。

「思います。何かひとつピックアップするとしたら、忍耐強さだと思います。小さい頃から中学、高校くらいまで空手を続けた生徒を見ていると、普通の子よりも忍耐強さを感じるんですよね。他のスポーツでも同じかもしれないですけど、何かを続けた人というのは、打たれても這い上がれるメンタルができ上がっているなと感じます。世界大会に出場することができるのも空手を続けてきたおかげなので、お世話になった方に結果で恩返しができるようにがんばりたいと思います」

【大会情報】
第13回全世界空手道選手権大会
主催:全世界空手道連盟新極真会
日時:2023年10月14-15日(型部門は14日10時からスタート)
会場:東京体育館
新極真会HP

取材・文/伊藤翼 写真/長谷川拓司、福地和男、伊藤翼 写真提供/志村朱々璃