スペイン・サンタスサンナを舞台に5日間にわたる熱戦が繰り広げられた「IFBB世界フィットネス&ボディビル選手権2023(11/1~11/5)」。本大会は年に1回、文字通りフィットネスやボディビル競技の世界一を決める世界最高峰の舞台だ。今回は日本から20名の選手が決戦に臨み、8つの金メダル、7つの銀メダルを獲得する結果を残した。
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世界大会を語るうえで、国内大会以上に切っても切れないのがドーピング問題だ。たとえば筋肉増強剤(アナボリックステロイド)は筋肥大を促す代償として人体にさまざまな危険を及ぼす薬物である。スポーツとしてフェアな競技性を守り、アスリートの健康を保護するためにもドーピングの撲滅は必要なものだ。だが、世界で活躍できる体をつくるため、ドーピングを行なう選手は後を絶たない。
IFBB(国際ボディビルディング&フィットネス連盟※所属プロ選手はIFBBエリートプロ)は2017年に母体から分裂後、「競技性を高め、オリンピックの正式種目にする」をコンセプトにドーピング禁止でクリーンな運営をうたっていたが、2022年に世界アンチドーピング規定を順守していないとして一時的にWADA(世界アンチドーピング機構)の特権を失っている。
そのような中で開催された今回の世界選手権では、実際にどのような検査体制で運営が行なわれていたのだろうか。競技歴約3年で国内最高峰の第41回日本女子フィジーク選手権大会で優勝、IFBB世界選手権では女子フィジーク163cm以下級で3位の実績を残した荻島順子さんに話を聞いた。
――率直にお聞きしますが、IFBB世界選手権においてドーピング検査はありましたか。
「はい。私は検査対象にはなりませんでしたが、選ばれた優勝者がドーピング検査を受ける感じだったみたいです。検査があることはみんな知っていました」
――そのような中、初の世界選手権にして結果を残すことができました。
「ありがとうございます。ナチュラルな人間が3位に選ばれたことに意味があるのではないかなとすごく思っています。ナチュラルじゃないと出ない質感があると思うので、そこの仕上がりを認めてもらえたというのが、私はこれから先にすごく希望があるかなと思っています」
――実際、荻島さんの皮膚の質感が良いというお話を伺っています。
「私はドーピングのことは詳しくわからないのですが、やるとやっぱりパリッとした質感にはならないとか、何となく艶やかで綺麗な色が出ないといったことを聞きます。皮膚感が良くなくなってしまうみたいなので、そのあたりは大きいと思います」
――2022年の第57回東京ボディビル選手権(8/12)では、中島千春さんに敗れて準優勝でした。その後、中島さんは第26回日本クラス別ボディビル選手権大会(8/21)でも優勝したものの、大会後にアンチドーピング規定違反が認められたためその成績は失効となり、準優勝の阪森香織さんが繰り上がり優勝。一方、日本アンチドーピング機構(JADA)の検体採取日以前の東京選手権の順位が変わることはありませんでした。もし順位が繰り上がれば、荻島さんは今年の東京選手権に出場しなくていい(※優勝者は翌年以降の出場資格がない)ため、2023年の戦いにまで影響を及ぼす出来事だったと思います。
「そうですね。順位が繰り上がるなら、今年はゆっくり調整ができるかなと思ったんですけど……。順位はそのままと知って『あ、そうか』と思いました。もともとそういうつもりでいましたし、それなら自分の力でティアラをかけてもらおうと思って、そこからすごくがんばろうと思うことができました。それですごく結果が出たので良かったです」
――この一件が心に火が付くきっかけにもなったのですね。
「はい。本当にあのことがあったからがんばれましたし、今年その勢いで優勝をずっと取れたのかなと思います。絶対に自力で、誰が何と言おうと1位をもらえる体をつくればいいんだと思いましたね。去年の体は中島さんに負けていたということですから、『じゃあ、もっとすごい体にしよう』と思ったので、そういった面ではプラスに転換できたと思います」
――フェアな競技性を損なうだけでなく、ドーピングは健康を害するリスクもあります。この問題についてどのようにお考えですか。
「自分はやらないのは確かです。健康へのリスクがある中で、あくまで個人の自由という意見もありますが……。国内で言うとアンチドーピングを掲げているJBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)の大会に出るならそういったことはしないでほしいなと思います。自分としては、ナチュラルでどこまでデカくできるか挑戦していきたいですね」
取材・文/森本雄大
写真(第41回日本女子フィジーク選手権大会)/木村雄大
写真提供/荻島順子