引き続き、“100%ナチュラル”を掲げるボディビル団体「全日本ナチュラルボディビルディング連盟(ANNBBF)」の理事/国際ドーピング委員会委員長を務める井上大輔氏に、アンチドーピングの考えを聞いていく。今回は、ステロイドを使用すると未来がどうなるか。
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勧めるほうも勧められるほうも将来どうなるかは見えていない
――前回、なぜドーピングはやってはいけない行為なのか、基本的な部分をうかがいました。とはいえ、「良くないもの」という認識があっても実際に禁止薬物に手を出してしまう人は今後も出てくる可能性はあります。
「おそらくですが、“いますぐに体が大きくなればいい”という考えが根底にあるので、良くないということは知っていても、どのような健康被害が、いつ体に現れてくるのか、そういったことをわからずに摂っているのではないかと思います」
――入口は、誰かに勧められて…ということも多い。
「いわゆる、ステロイドパーソナルと呼ばれるものですよね。実際のところ、ステロイドを使って大会で勝とうと思ったら年間に300万円ほど必要だと言われています。その費用を捻出するために、ステロイドユーザーは他の人に勧めていく。“これを飲まないと大会では勝てない”と男性トレーナーに言われて手を出してしまった女性トレーニーの話も聞きますし、勧めるほうも、勧められるほうも、先のことは見えていないのでしょう。実際にいま禁止薬物に手を出している人たちに健康被害が訪れるのは、10年後、20年後ですから」
――徐々に体を蝕んでいくもの、ということですね。
「そうです。アメリカでは、80年代~90年代にステロイドを使用していた人たちが、ここ数年までの間にどんどん亡くなっていきました。ボディビル界に限らず、野球のメジャーリーグで活躍したマーク・マグワイアなどが引退後に薬物の使用を告白したように、その頃のアメリカはドーピングをしてでも活躍して有名になり、大金を稼ぐというアメリカンドリームのようなものが流行った時代でした。まさに今の日本が、アメリカに遅れてそうなりつつあると危惧しています」
――アメリカと同じ流れが、いずれ日本にもやってくると。
「そういった方々の健康被害が顕在化し、場合によっては亡くなることもあると思いますし、そうなれば間違いなく社会問題になりますよね。アメリカでは数十年前に、現在のジョー・バイデン大統領が下院議員であるときにドーピングを禁止する法案を出し、可決されています。現在の日本でドーピングを行なうことは、出場する大会によって規定違反にはなりますが、法を犯すことにはなりません。ですが、いずれ日本もアメリカと同じ道を通ることになる。法律による規制がかかるのは、時間の問題だと思います」
――いま現在、禁止薬物を使用していないことはもちろん、これからも使用しない。だからこそ、ANNBBFでは厳格なドーピング検査を実施し、「100%ナチュラル」を掲げて活動を行っているということですね。
「私たちは世界ナチュラルボディビルディング連盟(WNBF)とのアフィリエイト契約による提携の下、地方・オープン大会では全選手の30%、全国大会においては100%の検査を実施しています。禁止薬物の陽性が確認された選手は実名で公表しますし、過去に一度でも使用したことがある選手は出場もできません。それほど、厳格にさせていただいています」
(続く)
文/木村雄大