骨折、盲腸炎、ウイルス感染…最強の体調不良から大躍進の3位。師の誘いに「弱音を吐いてはいられなかった」【椎名拓也#1】




合戸孝二&木澤大祐というトップボディビルダーが組んで昨年10月に開催した「ジュラシックカップ」は、総額300万円の賞金や派手な演出などで大きな話題を集め、大成功を遂げた。JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)のトップ選手である喜納穂高が最初代王者に輝き幕を閉じたが、彼以上に大会を経て注目度を高めたのが、3位入賞を果たした椎名拓也(24)だろう。

【インタビュー動画】口数少ない、声も小さい。だけど夢は大きい椎名の語り口

苦難を乗り越えて見せた過去一の絞り

「2022年は千葉県、関東、東日本と3大会で優勝できましたが、大会を終えてから何か月もずっとお腹の調子が悪く、過敏性腸症候群にかかっていました。さらにその後、ジムでマシンの掃除をしていたら落下してきたプレートに指を挟んで骨折、しかもその日はそのまま仕事に行ったらお腹が痛くなり、救急車を呼んだら盲腸炎でした。年明けもインフルエンザにかかったり、EBウイルスにも感染したりという状態だったので2023年はJBBFの選手登録もせず、大会にも出る予定はなかったんです」

まさに体調不良のオンパレード。今年は力を溜めて来年に向けて……と思っていた春先、静岡方面から声が掛かる。2021年のマッスルゲート静岡大会で顔見知りになって以来、たびたびパーソルナルトレーニングに通いながら、“狂気の男”合戸と椎名は親交を深めてきた。「俺の推薦で、ジュラシックカップに出てみないか?」……その問いに、断る余地はなかった。

「『出ます』と即答でした。合戸さんはパーソナルに行くたびにすごく褒めてくれるので、声を掛けていただきうれしかったですね。体調不良が続いたりで気持ちも多少落ちてはいましたが、合戸さんからの推薦で出るからには気合いを入れてやるしかない、弱音を吐いていられないと」

そこから10月末の大会に向けて約半年、減量に挑む日々がスタート。「ちょっと無茶な減量をしてしまい、トレーニングでの重量が落ちていってため息ばかりついてましたが、減量が進んでいる証拠だとポジティブに捉えました(笑)」と、決して楽な道ではなかったが、結果として調整に成功。「今までで一番」という絞りでステージに立ち、もともと目標として掲げていたという3位に。昨年の日本選手権ファイナリストの吉岡賢輝をも上回り、ビッグインパクトを残すことに成功した。

スマホには常にライバルの写真

口数は少なく、口調も大人しい(声も小さい)。ふんわりした独特の空気をまとう椎名だが、話していると、根っこにある強烈な負けん気の強さや、執念深さが顔をのぞかせることがある。

大会前にジュラシック木澤YouTubeチャンネルにて公開された動画では、「俺の身体を見ただけで満足したと思うくらいのものを見せる」と宣言していたゲストポーザーの横川尚隆に対して、「そうはさせねぇぞ、全部は持っていかせない」と発言。さらに、大会直後に会場で話を聞いた際には、「喜納さんに負けたのが悔しかった」と率直に漏らしていた。

「(インパクトよりも弱点が少なくバランスに優れる)喜納さんは自分とタイプが似ているので、負けたくないですよね。大会に向けた減量中も、iPhoneのトップ画面を喜納さんのポージングの写真にして、ずっと意識していたんです。喜納さんを超えてやろうと」

本人が愛する猫の「きなこ」でもなければ、好きなアニメ『ONE PIECE』でもない。尊敬する合戸でもない。自分だけが毎日目にする場所にこっそり仕込んだモチベーションの種は、その強き思いの証左と言えるだろう。

「いずれ、超えようかな…と」

ニヤりとほほえむその目は、師とは違った“狂気”そのものであった。

【フォト】ジュラシックカップ3位に輝いた椎名のステージショット

(続く)

【PROFILE】
椎名拓也(しいな・たくや)
1999年3月24日生、千葉県旭市出身。千葉県ボディビル・フィットネス連盟理事、スポーツGYMドリーム(千葉県山武郡横芝光町)のオーナーを務める。2016年の高校生選手権でボディビルデビュー。YouTubeチャンネル「美椎名(うつくしいな)」を運営中。

▼主な戦績
2016年 全国高校生ボディビル選手権 5位
2021年 日本ジュニアボディビル選手権 2位、マッスルゲート静岡大会 ボディビルジュニア&75kg以下級 優勝、クラシックフィジーク175cm以下級 優勝
2022年 千葉県ボディビル選手権 優勝、東日本ボディビル選手権 優勝、関東ボディビル選手権 優勝
2023年 ジュラシックカップ 3位&合戸賞獲得