「ベンチプレスをマラソンのような競技に」人々を魅了する限界突破の力比べ、荒川大介理事長に聞く未来の展望【第36回全日本ベンチプレス選手権大会】




自らも選手として活躍してきた荒川さん

――今回はフルギア(専用のベンチシャツ着用)の全日本大会でしたが、競技特性としてノーギアと異なる点はどのようなものですか。

「根本的には、特殊な生地のベンチシャツを着ることによってノーギアよりも重い重量を扱うことができます。ですが、単にシャツを着れば重量が挙がるというわけではなく、力が発揮できるピンポイントなコースを狙わないと重さは挙がりません。たとえるなら、磁石のS極同士を近づけるイメージでしょうか。ピッタリと合えば強い力で反発が起こりますが、少しでもズレると力は逃げてしまいますよね。ここしかないというポイント・コースで力を発揮することで、初めて重い重量を扱うことができます」

――ノーギアのベンチプレスとは別競技ととらえたほうがよさそうですね。

「はい。両方とも難しさはありますが、フルギアはまったく別物の競技です。効果が出るコースを見極めたうえで、自分のフォームが崩れないように意識しないといけませんから。闇雲に練習をしても記録が伸びない、非常にインテリジェンスな競技ですね。アーチの組み方をはじめとした体の使い方など、ベンチプレス競技にはさまざまなテクニックがあります。それこそ、チェストプレスマシンで重量を扱える人がベンチプレス競技で強いわけではないのです。そこもまた面白さですね」

――今後のベンチプレス競技の展望を伺えますか。

「語弊があるかもしれませんが、他のスポーツと比較して、ベンチプレスは肉体的には楽な競技だと思います。パワーリフティング3種目の中でもスクワットやデッドリフトのように極端に息が上がることもないですし、誰にでも親しみやすいものだと思います。将来はマラソンのように、レベルを問わずチャレンジしていける競技として発展してほしいですね。その中で、『自分の筋力以上の高重量を挙げたい』、『さらなる限界に挑みたい』という人間の本能に抗えないエクストリームな方々が、フルギア(ベンチプレスシャツ着用)の世界に足を踏み入れていくでしょう。あらゆる層の方が出場できる大会を今後も開催していきたいと思います」

取材・文/森本雄大
写真/西岡浩記
写真(大会風景)/森本雄大