“棲み分け”が日本にはない 海外とのドラッグ事情の違い【ドーピング問題を考える/バズーカ岡田】




外国人のドラッグユーザーは包み隠さず話す

――岡田先生は昨年、研究のためにイスラエルにわたり、海外におけるトレーニングやボディビルを生で経験されました。現地で体験されて、日本にいたときと考えが変わったことはありますか。

「まず、日本では、海外=ドラッグボディビルと思っている方が一定数いると思いますが、それは完全に誤ったイメージです。少なくとも私が行ったイスラエルでは、ナチュラルの(ドーピング検査がある)ボディビルコンテストが盛り上がっていましたし、そこで優勝したことで出場したWNBF(The World Natural Bodybuilding Federation)の世界選手権は、50か国以上から約300人ものナチュラルの選手が出場していました。『外国人=ドーピングしている』というのは、世界を全く知らない人が言っていることだと思います」

【第2回】ドーピングが悪だとは言い切れない タバコがなくならないのと同じ

――西アジアや中東地域に対して、日本人と比べると紳士的ではないような印象を持っている方も多いですが、そんなことはないと。

「日本人はざっくりと『中東』と捉えていて、中東地域に対する解像度は割と雑ですよね。金満イメージのドバイがあるUAE(アラブ首長国連邦)などでも、ナチュラルボディビルの大会は普通に開催されています。オイルマネーで王族がドラッグビルダーを支援しているイメージがあるかもしれませんが(笑)」

――おっしゃる通りだと思います。とはいえ、ドーピングをしている人がゼロではないのは同じかと思います。イスラエルと日本のトレーニング環境で、何か違いを感じたことは?

「『薬を使ってるか?』みたいな会話が、普通にできるところだと思います。変に隠そうとせずに、使っているなら使っていると彼らは正直に言いますし、聞くこともできます。そういう文化だからこそ、日本ほどドーピング自体が問題として扱われないのかもしれません」

――薬を使っていることの是非はさておき、堂々としている。

「当然、検査がある大会に薬を使った体で出場しているフェイクナチュラルは、ルール違反であり悪です。それはイスラエルでもWNBFプロ世界選手権でも嫌悪されていましたね。フェイクナチュラルをめちゃくちゃバカにするインスタ投稿も見ましたね(笑)。日本のボディビル界でドーピングが大きな問題になるのは、いわゆるこのフェイクナチュラル、こそこそと薬を使って大会に出てくる選手がいるからだと思います。では、なぜそういう選手が存在するのかと言えば、棲み分けができていないから。『あなた、やってますよね?』と素直に聞けない日本人だから、棲み分けができない」

※画像はイメージです

――日本独特の問題かもしれません。堂々とそういう会話ができるようになれば……

「とはいえ、あまり直接的な言葉にせずに、相手の心理を察して行動するのは日本人の国民性でもあり、良さでもあります。なかなか、それを変えていくのは難しいと思います」

――実際に、ドラッグユーザーと接したことはありましたか。

「イスラエルではもちろんいましたし、日本でも、隠さずに話す人が近くにいたことがあります。イスラエルの人は『何でも聞いてくれ』『オマエはやってないのか?』みたいな感じでしたよ。ただ、正直に言わない人がいたかどうかは、さすがにわかりません。筋肉が発達していても使っていない人はいるし、その逆で、ものすごく発達した筋肉ではないけど使っている人もいますから」

――日本のジムでは、まず聞くことのできない会話ですね。

「先ほど言ったように、それは棲み分けができているということなんです。ナチュラルの大会に出る人は、ドーピング検査を受けてナチュラルであることを証明する。イスラエルに限らず、Tested(検査がある)の大会とUn-Tested(検査がない)の大会に分かれていくのが今の世界の流れだと考えています。結局、ドラッグユーザーかどうかは、検査の有無でしか分けられないわけですから」

――まさに棲み分けがどんどん進んでいくと。

「ちなみに、検査を受けた選手たちは、イスラエルでは何の問題もなくUn-Testedの大会にも出場できます。このようにUn-Testedの団体には薬を使っている選手も使っていない選手もいるでしょうが、ドラッグユーザーがTestedの団体に出場したら陽性反応が出るのはわかりきっているので出場することはない。まさに、棲み分けがしっかりできている。実は、昨年私がイスラエルで出場したナチュラルの大会で準優勝だった選手は、Un-Testedの大会にも出場して優勝しているんです。ナチュラルの奥深さを感じましたね。

ちなみにそのときは、いま日本にいる多くの人と同じ様に『Un-Testedの大会に出場してはいけない』と認識していたので、その話を聞いて、私も出場すれば良かったと思いました。実際に『タカシはなんで出ないんだ?』と聞かれましたよ(笑)。一つでも多くの大会をイスラエルで経験したいと思っていたし、Un-Testedの団体の選手たちと戦える機会は、日本にいたらまずないですから」

第4回へ続く)

インタビュー/木村雄大

【PROFILE】

岡田隆(おかだ・たかし)
1980年、愛知県出身。日本体育大学教授。博士(体育科学)、理学療法士、骨格筋評論家「バズーカ岡田」。東京大学大学院満期退学。元柔道全日本男子チーム体力強化部門長として、全階級メダル制覇(リオ五輪)、史上最多金メダル5個(東京五輪)に貢献。実践に基づく研究を信条としており、究極の実践としてボディビル競技にも挑戦している。日本ボディビル・フィットネス連盟(JBBF)主催の第34回日本マスターズボディビル選手権大会 40歳以上級優勝(2022年)、ゴールドジムジャパンカップ2022 ボディビル75kg以下級優勝などのほか、2023年はWNBFプロボディビル世界選手権 マスターズクラス優勝を達成。相澤隼人(日本男子ボディビル選手権3連覇)、五味原領(日本クラシックフィジーク選手権優勝、IFBB世界選手権クラシックボディビル168cm以下級優勝)らを輩出した日本体育大学ボディビル部の顧問も務める。『70歳からの人生を豊かにする 筋トレ』(高橋書店)、『世界一細かすぎる筋トレ図鑑』、『世界一細かすぎる筋トレ栄養事典』、『世界一細かすぎる筋トレストレッチ図鑑』(以上、小学館)など著書多数。
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