検査すれば陽性者が出るのは当然 前向きに進んでいることへの理解を【ドーピング問題を考える/バズーカ岡田】




世界でも類をみない簡易ドーピング検査の取り組み

――最近のドーピング問題に関する大きなトピックとして、今年1月、2件の大きな報告が日本ボディビル・フィットネス連盟(JBBF)よりなされました。1件目は、立野智宏選手によるアンチドーピング規則違反。観客として大会に来場していた彼が、会場に置き忘れた荷物の中に、禁止物質の含有が疑われる物品が含まれているのが発覚したという珍しいケースでした。

「立野くんに関しては、以前にYouTubeでもお話ししましたが、同じジムでトレーニングをしていたこともある友人の1人です。正直なところを言うと、なぜ大会会場に持ってきていたのか…というのが、よくわかりません。JBBFの大会に出場していた選手ですし、アンチドーピングのことは当たり前のこととして理解していると思っていましたが、現実はそうではなかった。誰がやっているのかなんてわからない、身近にもそういう人がいるのだと、性善説すぎたというか、私自身の反省といいますか、一つの経験になったと受け止めています」

【第4回】世界の流れはポリグラフ検査+尿検査。尿検査だけでは世界水準ではない

――2件目は、JBBFが昨年から開始した簡易ドーピング検査について。昨年度の検査結果として、8件の陽性疑いがあったというものでした。

「『JBBFの所属選手でもやってる人がこんなにいる』という怒り、失望、落胆の声がSNS上では多かった印象ですね。確かにこの結果からするとそれも理解できますが、そもそも検査をすれば陽性者は必ず出るもの。検査というものは、ドーピングをゼロにできるものではなく、抑止するものですから。極論ですが、陽性者を出したくなければ検査をしなければいい。また、今回のようなイレギュラーな検査なら検査結果を公表しないということもできたかもしれない。

したがってこの件は、ちゃんと検査を行い公表するという健全な体制が敷かれているという証であり、ドーピングを排除するための動きが進んでいることであると、前向きに捉えるべきだと私は考えます。ドーピング抑止力としての効果は今後高まっていくと思いますし、そうした自浄作用をJOC(日本オリンピック委員会)やJADA(日本アンチ・ドーピング機構)を超えて本気でつくりはじめたところなのだと」

――そもそも、本来はJADAやWADA(世界アンチ・ドーピング機構)のコントロールの下にいるJBBFが、独自の簡易検査を導入したのは、驚くべきことと言えるのではないでしょうか。

「おっしゃる通りだと思います。JADAが実施していない簡易検査を傘下団体に認めたというのは、本当にすごいことだと思います。また世界を見渡しても類を見ないやり方であると思います。その一方で、まだ始まったばかりの方法。知見は少ないでしょうし、昨年度のデータをどう取り扱っていくかはこれから動きがあるのではないかと考えています」

――今年、さらに進化した形になる可能性があると。

「この結果をどう処理していくのかが次の課題だと思います。また、現在の検査方法や処理の手順は、選手の権利侵害にならないようになっているのか、あるいは何かしらの操作がなされて、選手に嫌疑がかかってしまうようになっていないか、すり替えが行われていないか…など。検査の洗練性も今後の課題でしょう。加えて、結局は代謝物(首後ろをぬぐい、皮脂を採取してデータを集める)の検査なので、尿検査と同じく体内で代謝されて外に出てこないもの(あるいは捉えられないもの)には効果がない、限界がある検査であることは頭に入れておくべきです」

――検査に対して批判的になったり、ネガティブになったりするよりは、前向きに進んでいっていることをポジティブに捉えたいですね。

「完璧な検査方法など世の中に一つもありません。アンチドーピングでも同じで、あくまで抑止力であるということを理解し、ドーピングをゼロにできるという過大な期待は寄せない方が良いです。悲しいですが、どんな検査方法でもすり抜けようとする者はいる、くらいの理解をしておくのが良いでしょう。その中でも、JBBFがアンチドーピングの理念を推進し、より良い競技環境にしていきたい気持ちを持って新しいことに取り組んでいるのは間違いありません。

私は柔道の日本代表チームの一員として、オリンピックを戦う中でのドーピング検査を見てきましたし、世界のボディビルのアンチドーピングの姿を見てきました。この経験の中でもJBBFはやるべきことを進めている組織であり、そのJBBF所属選手は世界に誇れる高い競技力を持っていると感じます。そうした選手が世界で正当に評価され、人生をより輝かせるためにも、さらに体制を整えていくべきと思う部分もあります。JBBFは価値ある団体であることは間違いなく、世界の潮流に置いていかれることのないように、力を貸していきたいと思っています」

第6回へ続く)

インタビュー/木村雄大

【PROFILE】

岡田隆(おかだ・たかし)
1980年、愛知県出身。日本体育大学教授。博士(体育科学)、理学療法士、骨格筋評論家「バズーカ岡田」。東京大学大学院満期退学。元柔道全日本男子チーム体力強化部門長として、全階級メダル制覇(リオ五輪)、史上最多金メダル5個(東京五輪)に貢献。実践に基づく研究を信条としており、究極の実践としてボディビル競技にも挑戦している。日本ボディビル・フィットネス連盟(JBBF)主催の第34回日本マスターズボディビル選手権大会 40歳以上級優勝(2022年)、ゴールドジムジャパンカップ2022 ボディビル75kg以下級優勝などのほか、2023年はWNBFプロボディビル世界選手権 マスターズクラス優勝を達成。相澤隼人(日本男子ボディビル選手権3連覇)、五味原領(日本クラシックフィジーク選手権優勝、IFBB世界選手権クラシックボディビル168cm以下級優勝)らを輩出した日本体育大学ボディビル部の顧問も務める。『70歳からの人生を豊かにする 筋トレ』(高橋書店)、『世界一細かすぎる筋トレ図鑑』、『世界一細かすぎる筋トレ栄養事典』、『世界一細かすぎる筋トレストレッチ図鑑』(以上、小学館)など著書多数。
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