ボディビル競技、特に世界大会におけるアンチドーピングの取り組みはどのようなものなのか。7月初旬に開催されたIFBBアジア選手権に出場した下田亮良(りょうけん)に、当日の検査の実態を聞いた。
――単刀直入に聞きます。アジア選手権では、ドーピング検査は行われていましたか?
「はい、WADA(世界アンチ・ドーピング機構)による検査は行われており、自分もボディビル65kgで優勝したことで検査対象となりました。全員に聞いたわけではないですが、僕以外にも、各競技で優勝した選手を中心に日本人が5~6人は対象になったみたいです」
――検査方法は?
「僕は尿検査でした。ただ、メンズフィジークでクラス優勝とオーバーオール優勝をはたした外間博也選手は血液検査も受けたという話も聞きました。どちらかを選択するという形ではありませんでした」
――イランの選手たちが検査を拒否&逃亡していたとSNSに綴られていました。どのような状況だったのでしょうか。
「オーバーオール戦は僕と韓国人の選手以外の6人がイラン人で、彼らのうち4人がステージ後に検査対象になりました。僕は早く検査を終わらせて帰りたかったので、最初に検査室に行ったのですが、検査を終えて待機室に戻ると、イラン人選手やコーチと係員の方が揉めているというか、大きな声で話していたんです。何を話しているのか詳しくはわからなかったのですが、どうやら、そうしているうちに勝手に帰ってしまったようでした」
――もし検査を行なっていないとなると、彼らは失格となり、順位はく奪となるかもしれませんね。
「まだ確定の話ではないのですが、そのようになるだろうと係員の方にも聞きました。もし本当であれば、数か月後に検査結果がIFBBから出る際に、何かしらの発表があると思います」
――昨年のIFBB世界選手権においては、イラン人選手らがドーピング検査により陽性者となり、日本の五味原領選手と川中健介選手が繰り上がり優勝となりました。まだ仮定の話にはなりますが、オーバーオール戦で7位だった下田選手は、同様の事態となった場合に順位が繰り上がることになると思います。率直にどう感じますか。
「まず、階級別の審査でそういった選手が出て繰り上がりとなったら、複雑な心境にはなると思います。一方で、僕自身は65kg以下級という軽量級の選手なので、明らかに体重が上の選手とのオーバーオール戦は勝負にならないというか、体重別の試合とは少し別物と捉えています。なので、こういう言い方は良くないかもしれませんが、『オーバーオールも獲ってやる』というのは思っていなかったですし、もし繰り上がりという結果になったとしても、『あのやろー!』と他の選手を憎むみたいな気持ちにはならないと思います」
――ちなみに、バックステージでの選手間でのコミュニケーションは。
「当然、過去の大会を鑑みたり、多くの経験をされた選手の方から話を聞いたりもする中で、世界やアジアの戦いにおいては横に並んでいる選手の中にドーピングをしている選手がいる可能性があるというのは、シンプルに事実として受け止めています。ただ、それはその場ではわからないことなので、普通に一緒に写真を撮ったりしていました」
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