1980年代、日本中に女子プロレスブームを巻き起こしたクラッシュギャルズ。長与千種＆ライオネス飛鳥のタッグチーム（当時は「ペア」という表現が主流）は男子プロレスのエッセンスも持ち込み女子プロレス界に革命をもたらすと同時に、リング上で歌って踊り、芸能の仕事もこなす女子プロレスならではの伝統も引き継いでいた。そんな彼女たちをさらに光らせたのが、いわゆる悪役の存在だ。
クラッシュが国民的アイドルなら、極悪同盟を率いたダンプ松本は日本中を敵に回すかのように悪の限りを尽くし、世間からの誹謗中傷も糧として暴れまわった。そんなダンプの半自伝的ドラマがNetflixで製作され、9月19日（木）より全世界に向けて配信される。題して、『極悪女王』――。
全５話で構成されるこのドラマは、まずは冒頭からその世界観に引き込まれる。極悪メイクで悪役に変身するダンプ。ダンプがあこがれたビューティーペア（ジャッキー佐藤＆マキ上田）の輝き。そして、会場の熱狂度の再現がすさまじい。物語の中で、“プロレスの聖地”後楽園ホールをはじめ、日本武道館や大阪城ホールといった大会場、また地方の体育館の雰囲気が当時に限りなく近いのだ。会場を埋め尽くす観衆や、応援風景、服装に至るまで、まるでタイムスリップしたかのような没入感が味わえるのである。
そこで繰り広げられる少女たちの闘い。それは同期との闘いであり、先輩レスラーとの闘いでもある。そしてまた、彼女たちは家庭環境や男性主導の社会とも闘っていく。現在では考えられない理不尽な出来事と同時に、当時の熱量はある意味うらやましくもある。
物語はダンプがヒールとして覚醒する瞬間を中盤の、そして長与との「敗者髪切りデスマッチ」をクライマックスとして突き進む。さらには夢のような感動的ラストシーンまで目が離せない内容で、一気見させられる作品になっているのだ。
ダンプを演じるのはお笑いタレントのゆりやんレトリィバァで、文字通りの体当たり演技を見せてくれる。クラッシュには長与役に唐田えりか、飛鳥役に剛力彩芽という豪華な布陣で、松永兄弟の松永俊国を演じる斎藤工が団体サイドからの圧力を圧倒的に表現し、極悪同盟に欠かせない存在だった阿部四郎役の音尾琢真がいい味を出している。ダンプ、クラッシュをはじめレスラーを演じる俳優は長与自身がプロレススーパーバイザーとして身体作りから約2年間にわたり指導。長与の団体Marvelous（マーベラス）が全面協力し、当時の試合をあますところなく再現させた。
当時を知るファンには懐かしく、知らない人にはあの頃の熱狂が新鮮に映るだろう。ダンプの壮絶なプロレス人生を描く『極悪女王』から、女子プロレスのすごい時代を体感してほしい。
