野球界に存在する独立リーグ。プロ入りを狙う若手選手が多く集い、夢に向け奮闘している。今回は「四国アイランドリーグplus」所属「愛媛マンダリンパイレーツ」で選手を支える泉田竜洋トレーナーと、スカウトも注目する廣澤優投手のストレッチ事情に迫った。
スポーツ界における選手とトレーナーの関係
近年、スポーツの世界ではトレーナーの存在感が増している。プロサッカーがJ3まで拡大し、野球の世界でもプロを目指す独立リーグというカテゴリーができる中、選手の体のケアはチームのミッションとなり、今や学生スポーツの世界でもトレーナーの存在は不可欠になっている。プロ野球の世界では練習メニューも球団が雇ったトレーナー主導になっている球団すら出てきている。そんな中、第一線でプレーしてきた指導者とトレーナーの軋轢が出るケースもあるようだ。
「僕にはそこまで権限はないですけどね。まだ一年目ですし」と話すのは、NPBに選手を送り込むことを目的として展開されている独立リーグ、四国アイランドリーグplusの愛媛マンダリンパイレーツでトレーナーを務める泉田竜洋さんだ。自身は高校時代まで野球をプレーし、高校を卒業後は専門学校で学び、サッカーJリーグ、バスケットボールBリーグでトレーナーの経験を積んだのち、プレー経験のある野球の世界に飛び込んだ。
「ストレッチだけを強調して指導することはないですけど」と言う泉田さんのスタンスは、選手の要望に応じた指導、ケアである。
そんな泉田トレーナーが、「ストレッチ」に対する意識が高いと推薦してくれたのは、スカウト注目のリリーバー、廣澤優投手だ。日本大学第三高等学校から社会人野球の強豪・JFE東日本に進み、「プロへの近道」と考え、独立リーグに挑戦した23歳。彼にもまた、多くの投手と同じく肘の故障歴がある。ドラフト指名を目指す独立リーガーたちは総じて若く、クールダウンのストレッチをおろそかにする選手も少なくはないのだが、故障を経験している彼にとって、ストレッチは欠かせない。毎日ストレッチに一時間はかけるという徹底ぶりだ。
「高校2年の秋ですね。試合中に肘をやっちゃったって、自分でわかりました。腱が切れたとかじゃなく、症状としては軽い部類だったんですけど、その試合はむちゃくちゃ痛かったです。我慢してそのまま投げて試合後、病院に行って、尺骨神経の炎症だって言われました。それから一週間くらいはノースローだったんですけど、その後は普通に投げました。まだ痛かったんですけどね。高校のチームにもトレーナーさんはいましたが、『それくらいなら大丈夫だよね』とのことだったので。その炎症自体は冬を越したら治りましたが、今もどちらかというと肘は張りやすいですね」
深まったストレッチへの理解度
高校時代の故障前は、指示に従いチーム全体で行なうストレッチには取り組んでいたが、それはあくまで練習メニューの一環として行なっていただけで、自分の体にいかなる効用をもたらすのかは考えてはいなかったと廣澤投手は振り返る。ストレッチに対する考え方が変わったのは社会人になってからのことだったと言う。「プロ」という目標ができた分、体のケアに対する意識も変わったのだろう。高校時代、故障時に通っていた病院で教わったストレッチを愚直に続けてきたのが今、結果となって現われている。
「ウエイトトレーニングを始めたのが社会人になってからなんですけど、ウエイトにかけたのと同じ時間をストレッチにかけるようにしています。筋肉に負荷がかかればかかるほど、ケアもしなければならないので」
そんな廣澤投手にストレッチをお願いされるという泉田さんは、「ストレッチはプレー前よりプレー後が大事なんです」と語る。
「ストレッチには大きく分けると3つあるんです。みなさんストレッチっていうと、ひたすら筋を伸ばすのをイメージされると思うんですけど、プレー前にあれをやり過ぎると、緩みすぎてパフォーマンスを発揮できないんです。だから練習前や試合前は、これから動かす筋肉に刺激を与えるため、反動をつけて行なうバリスティック・ストレッチ、それに自分で足上げなんかを行なうダイナミック・ストレッチを行ないます。じわーっとゆっくり10秒~20秒かけて筋肉を伸ばしていくのはスタティック・ストレッチっていうんですけど、それはプレー後に行なうのが効果的です。体のケアにはこれが大事ですね」
横で泉田さんの説明を聞いている廣澤投手は、ふだん自分が行なっているウォーミングアップ、ストレッチにそれぞれ意味があることを聞いて感心している。
「そんなこと、全く知らないで今までやっていました(笑)。話をお聞きして、ああ、なるほどなって。勉強になります」
(後編に続く)