『極悪女王』の時代は男も女も熱かった! IWGP暴動、タイガーマスクの復帰と2代目、長州全日本etc.1984年のプロレス界を振り返る




Netflixで大ヒット中のドラマ『極悪女王』は、1980年代中盤の女子プロレスが舞台になっている。長与千種&ライオネス飛鳥組のクラッシュギャルズが国民的アイドルとなり、敵役として日本中の嫌われ者を買って出たのが、極悪同盟率いるダンプ松本だった。

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『極悪女王』はダンプの視点で語られるフィクションだが、登場人物や出来事など史実をもとにしており、この時代の熱狂を存分に再現していると言えるだろう。

では、実際のプロレス界はどうだったのか。当時はまだ男子と女子のプロレスには大きな隔たりがあったものの、長与が男子プロレスのエッセンスを取り入れ始めたことから女子プロレスの見られ方に変化の兆しが生じ始めた頃でもある。

当時のプロレス界はアントニオ猪木の新日本、ジャイアント馬場の全日本、女子プロが全日本女子プロレスの3団体。女子は全女が独占しており、女子の競合団体など考えられない時代でもあった。さらにこの年には、新日本から分かれた新団体も誕生する。本欄では、クラッシュがブームを呼んだ1984年(昭和59年)のプロレス界を振り返ってみよう。

この年を語るうえでまず忘れてはならないのが、新日本プロレス2・3札幌で発生した事件である。「名勝負数え歌」と呼ばれた藤波辰巳(現・辰爾)vs長州力の一戦に、藤原喜明が介入。当時は前座レスラーにすぎなかった藤原が入場時の長州を襲撃し、タイトルマッチをぶち壊してしまったのだ。ライバルを目前にして試合を潰された藤波は、「こんな会社やめてやる!」との言葉を残し、雪の会場から去っていった。その一方で、長州を血祭りにあげた藤原は「テロリスト」として、一躍脚光を浴びることとなる。

4日後の蔵前国技館は空位のWWFジュニアヘビー級新王者を決めるリーグ戦の最終戦で、ザ・コブラ、ダイナマイト・キッド、デイビーボーイ・スミスの三つ巴戦にもつれ込んだ。最後はキッドが制し、初代タイガーマスクから奪えなかった悲願のベルトを初戴冠、スミスとともに感動的シーンを作り上げた。

前年にタイガーの電撃引退やクーデター事件で揺れに揺れた新日本。この年になると、元営業本部長の“過激な仕掛人”新間寿が前田明(日明)をエースにUWFを旗揚げ。シリーズ最終戦の4・17蔵前では新日本の藤原が参戦し、前田と両者KO。しかし噂された猪木の登場や大物外国人レスラーの移籍もなく、新間は翌月に最高顧問を辞任した。

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新日本のリングでは、猪木の正規軍と長州の維新軍が全面対決。4・19蔵前で5対5勝ち抜き戦が実現し、最後は猪木が長州を破り正規軍の勝利となった。その後、新日本は第2回目となる「IWGP」に突入。決勝戦は2年連続で猪木vsハルク・ホーガンとなり、前年の“舌出し事件”で優勝を逃した猪木の初制覇が期待されていたのだが、リングサイドに長州が現われ試合をぶち壊す暴挙。猪木がリングアウト勝ちで初優勝となったものの、納得いかない観衆の怒りが爆発し、暴動騒ぎとなってしまった。

馬場の全日本ではすでに馬場が第一線を退いており、ジャンボ鶴田と天龍源一郎の鶴龍時代が本格的にスタートする。その号砲となったのが2・23蔵前だった。鶴田がニック・ボックウィンクルとのダブルタイトルマッチでインターナショナルヘビー級王座を防衛するとともに、日本人として初めてAWA世界ヘビー級王座を奪取してみせたのだ。また、来日中に急逝したデビッド・フォン・エリックのUNヘビー級王座を天龍が奪取。全日本に2大エースが誕生する。

鶴龍コンビがリング上のツートップとなった全日本は6月、新日本プロレス興行と提携関係を結んだ。新日本興行とは新日本の大会を手掛ける興行会社だったのだが、新日本を退社した大塚直樹が全日本8・26田園コロシアムを手掛けたことから馬場と急接近。新日本興行は新日本からの選手引き抜きを宣言し、やがて新日本興行所属選手が対抗団体の全日本に参戦するようになる。その田コロでは、2代目タイガーマスクがデビュー戦。新日本で大ブームを起こしたキャラクターが全日本に登場するという衝撃の出来事も、全日本と新日本興行との関係からだった。

81年から83年にかけて空前のブームを作り上げた本家の初代タイガーも、プロレス活動を再開させた。UWF7・23&24後楽園での「無限大記念日」に、ザ・タイガーの新リングネームで参戦したのだ。これが354日ぶりの試合で、8月には山崎一夫とともにUWFに入団。元・新日本の藤原、髙田延彦らと合流し、四次元殺法を事実上封印。格闘スタイルを前面に押し出し、スーパー・タイガーとして闘っていく。

UWFや新日本興行の設立で多くの選手を失った新日本に、正体不明のマスクマンが出現した。8・24後楽園にストロング・マシンを名乗るマスクマンが元・国際プロレスの若松市政をマネジャーにリングジャックを敢行。その後マシンは増殖し、マシン軍団が結成された。

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9月には、猪木が大相撲・小錦の兄であるアノアロ・アティサノエを相手に5年ぶりの異種格闘技戦を行なうも、起爆剤には至らず。翌日には新日本興行が長州、アニマル浜口、谷津嘉章、小林邦昭、寺西勇を獲得し、後日キラー・カーンも合流した。新日本興行は10月にジャパンプロレスに名称変更、12・4高松で事実上の旗揚げ戦を開催すると、全日本にジャパンの選手を次々と送り込んでいく。

11月には新日本のタッグリーグ戦出場をキャンセルしたばかりのキッド&スミスの外国人タッグが全日本に衝撃の移籍。そのまま「世界最強タッグ決定リーグ戦」にエントリーすると、このシリーズからジャパン軍も本格参戦したばかりか、UWFを離脱したラッシャー木村が馬場を裏切り、剛竜馬、鶴見五郎らと国際血盟軍を結成した。長州の全日本初参戦となった12・12横浜が最強タッグ決勝戦で、鶴田&天龍組がスタン・ハンセン&ブルーザー・ブロディ組を破り、優勝を飾っている。

女子プロでは、この年の全女8・25後楽園、長与&飛鳥組のクラッシュが“ダイナマイト・ギャルズ”ジャンボ堀&大森ゆかり組からWWWA世界タッグ王座を獲得した。前年8月の初挑戦から約1年、3度目の挑戦にしてベルトに到達すると、初挑戦当初から湧き上がっていた期待感が大爆発。『炎の聖書(バイブル)』で歌手デビューもはたすと、その人気はジャンルを超えて老若男女、日本中に波及した。そのライバルとして長与&飛鳥に牙をむいたのがダンプだった。クラッシュと極悪同盟の血で血を洗う抗争は日に日にエスカレートし、翌年の敗者髪切りマッチへと発展する。

こうして84年を振り返ってみると、女子プロばかりか男子の方もすごい時代だったとあらためて感じられるのではなかろうか。男女間ではほとんど接点のなかったプロレスだが、あの頃は、男も女も熱かったのだ。(文中敬称略)

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