筋肉界一の美しいポーズここにあり モアナと伝説の海のマウイで「ハッピーな感じに。今までにない表現で」




椎名拓也との初対面は、昨年のジュラシックカップ(合戸孝二&木澤大祐主催のボディビルイベント)後の会場ロビー。「口数が少ないな、あれだけ素晴らしいステージを見せた男なのだから、もっといっぱい語ってくれよ…」なんて当時は思ったものだが、あれから1年が経った今、もし彼がおしゃべりな男だったら、さほど注目を集めることもなかったんじゃないかと思ったりもする。

【フォト&ムービー】マウイのごとく優雅に力強く舞う椎名拓也

2024年も、椎名拓也はやはり椎名拓也だった。

10月19日のジュラシックカップのグランドクラスにて決勝進出した彼は、再び60秒間のフリーポーズへ。スポットライトを浴び、腕を組んで仁王立ち。流れてきたのは「そう、自然のことすべて俺はズバリ答えられる」というラップ調の陽気な音楽。ディズニー映画『モアナと伝説の海』にてマウイ役の尾上松也が歌った「俺のおかげさ」だ。

拙い言葉による表現よりも映像を見てほしいのだが、マウイのごとく音楽に合わせてクルクルと踊るように舞いながら、要所はバチっと筋肉が際立つポーズをハメ込む。さりげなく手を叩いてリズムを刻むと、そこから自然とクラップが客席で巻き起こり、一気に会場が一体となった。

これまでもそうだが、椎名のフリーポーズの中には基本的にボディビルの規定ポーズは組み込まれない。自分の体の魅力を引き出すポーズを使いながら、曲のテーマに合わせた仕草を加え、唯一無二の世界観を演出する。

大会後、彼を捕まえて聞いてみた。「どんなテーマだったんですか?」と。

「あれは、なんかハッピーな感じです…(笑)」

まてまて、もうちょい解説してくれ。

「えーと…。今までないような新しい表現をしたかったので、それを形にしたっていう感じですかね。曲のビデオを見て、なんかうまくつながるところはないかなって。とにかく動いてつくった感じです」

そうか、きっと映画を見て何か感じるものがあったのかもしれない。

「映画は見たことないんですけどね」

だいたい、彼との会話はいつもこんなものである。思えば、9月の日本クラス別選手権ではフリーポーズの中にビキニフィットネスのサイドポーズを取り入れていたこともあり、立ち話程度に聞いてみても「ビキニへのリスペクトを込めて…」とだけだった。後に自らのYouTubeで語るだろうと考えたので深追いはしなかったが、今現在、真意は語られていない。多くを語り過ぎないのが椎名拓也の流儀なのだろう(本当にそれ以上のことがない可能性も捨て切れない)。

ゆるく、ふんわりと、多くを語らずにファンを魅了する椎名ワールド。ただ、それだけではこの世界では愛されない。昨年からグレードアップしたその体を見れば、合戸譲りの狂気性を忍ばせているのもよくわかる。競技への熱意だとか、彼の本心や狙いを引っ張り出してみたくなるのが我々の性ではあるが、おそらくこのままそっとしておいたほうがいいと思っている。

ミステリアス椎名よ、これからもミステリアスであれ。